さわやかなある夏の記録
とある公募の落選作ですが、もしよろしければ読んでいってください。
林間学校行きのバスのなかは乱痴気騒ぎそのものいっていい。
コーラを口に含んで「ぶーっ」とクラスメイトの顔に向かって吐き出すもの、担任の先生に向かっておにぎりを投げつけ「オイテメェ拾え、拾えつってんだろ、東大出てるくせにンなことも分かんねえのかよ? 使えねえな、なあみんな」などという生徒。「じゃれ合っているだけ~」と言いながら羽交い締めした男の子を別の子がお腹にパンチを入れていて……高速を走っているバスの車内でである。
バスの運転手さんが心配になってしまう程だ。それなのに担任の眼鏡をかけた神経質そうな男性は全くの無視を決め込んで、副担任の女性はびくびくしているばかり……中学一年生の学級崩壊。
林間学校の行き先は現代でいう限界集落を超える様な、つまりは長野の田舎の元小学校の校舎。
あくまで、宿舎として借りることになっていました。
担任が男性加藤は移動中に新米教師として赴任した4月の事故に……思いを這わせておられたたようです。
加藤先生は東大文学部行動文化学科に在学中、教師となることを決意されました。見た目とは裏腹に、情熱に燃えた熱血先生でしたよ。
ただ見た目の押しが弱そうに見える印象を三人の生徒に見破られてしまい、すぐにその子達によって授業が混乱をきたし、教室を怒涛の様に崩壊させてしまいました。
加藤先生がやる気をなくし行ったのはインテリ特有の線の細さではありません、むしろ挫折に燃え、どう攻略するか燃えておられたのに、「東大だからね、挫折に弱くて当然……」という周りからの期待に押しつぶされてしまった様でした。
東大というインテリにする期待、「失敗しろ、挫折を味わえ、足を引っ張ってやる……」そういう声にならない声が無数にあったからではないでしょうか。
どうしてって? 教育学部の偏差値の低さからくる妬みは凄いとおっしゃっておられたからです、村社会の学校にはそれだけで十分なのです。
副担任が女性鈴木先生の境遇も大変なものでした、着任早々に妊娠が分かり、それが生徒に発覚してしまいました。
悪童三人組と一部の女子は事もあろうに「鈴木を流産させるキャンペーン」を張りやがったのです。
先頭に立つ一部の女子の手引きにより、「先生の子は池沼」「キモイ子スズキの子」「優生法によりおろした方がいい、親切からのアドバイス」「お前の子はもう死んでいる!」……見るに堪えない文字が色紙に書かれ、それがすべてクラスの子の筆跡だとわかった時には彼女は目の前が真っ暗になって、職員室の自分の席から一歩も動けなくなってしまったとか。その時の彼女は過呼吸発作を起こして、内心死ぬ恐怖を感じたと聞かされました。
SNSを使った手口も同様に、凄まじい言葉の暴力。幼さからくる容赦のなさは彼女を徹底的に追い詰め……「言葉を文字にしてぶつけられるのは何倍にも堪えるものよ」彼女の言葉が今も胸に焼き付いています。
限界を超えたストレスに押しつぶされた彼女は流産なさってしまいました。。
この出来事は彼女を苦しませ続け、私は今も胸を痛めています。どうしても死んだ子の歳をかぞえさせてしまうから……そう先生はおっしゃっていましたね。
同様の手口で一人、今不登校になっている男の子がいて名を柴山といいます。今回の林間学校ではバスではなく、先に電車で現地に向かわされていました。
最初副担鈴木先生は虐められている柴山に冷淡であまり関心が薄かった様ですが、流産後柴山の面談に行ってから共同体験からか急送に二人は親しい仲になって行きます。この二人の親密さが今回の事件にどのような影響を与えたのかはご想像にお任せします。
バスが廃校の校庭に入ってから、クラスは六つのグループに分けられ振り分けられていったのですが奇妙なのは其のうちの三つのグループの教室の中が完全に目張りされていて、日の光が一条も注がず、薄暗かったことでしょうか? だけど空調は効いていて室内は快適、きっと空調を最大限効かせる為に太陽光を入れないんだ。そうその部屋に入る三人三組はそれぞれに納得してくれました。
それぞれの部屋の生徒たちは早速お菓子やジュース類を荷から出してぱくつき、そしてお互いにおしゃべりを始めたので、私はクスリと笑いをかくせませんで……ふふっ。
そこに現れたのは迷彩服を着、目には大きなミラーサングラスをかけた同級生でした。
腰には警棒らしきものをぶら下げています。
そして突然の命令をするのです。
「刑務官長殿からのお達しです、コレに着替えて速やかに体育館に集合です、いやしなさい……しろ」
そういってもう一人が持ってきた物はパジャマの様な縞々の服と帽子でした。胸には大きな字で何か番号の様なものが縫い付けられています。
「何のごっこだよ」
「ふざけんなよ、誰がんなモン着るかよ、何のコスプレっての」
「はははっ映画の囚人服みたい」
そう言い返されて迷彩服を着た二人は顔を見合わせてしまいました。
まだ役になり切れていない様子です。
その二人を見ていたもうひとりが意を決したように、前に進み出て言いました。
「こうしろって言われただろ?」
彼は腰の警棒を抜いて三人を突付きます。 パチパチという音と共に三人はもんどりうち、身動きが取れなくなってしまいました。 当然ですよ~w、バトン型のスタンガンなのですから。
「痛ぇぇぇ………………何すんだ」
「………………動けない」
実力行使に出た看守役は三人が回復するのを待ち、二十秒位でしたが駄目を押しました。
「分かったね? じゃあさっさと着替えて、そして移動するときはこの目隠しもして、ああ後このおもちゃの鎖で全員つなぐようにも言われている」
そういってひけらかすようにポンポンと警棒で相手をつつきます……少し彼は興が乗ってきたみたいでした。
確かに先生、いえ今は同格の加藤の言った通りの展開です。
そういう事が各部屋で起こって、渋々ながらも命令に従う生徒達です。
もちろんこの時やられた側は思っているでしょう「後で覚えとけよ!」と。
でもそんな思いもぶっ飛ぶことが、全員が集合した体育館でぶち上げられたのです。