第3話 Part2
銃にはなくてはならない物がある。
どんなに腕の立つ者がいようと、
どんなに優れた性能の銃だろうと、
撃つ『弾』がなければ、ただの鈍器だ──
「これって…。銃、だよな?…弾は?」
箱の中身は拳銃のみ。その代物は一本の木がそのまま銃の形に育ったような、木材というより木そのものだ。
異質だが明らかに銃だと認識できる一方で、弾薬や弾丸らしきものは見当たらない。
だが、異世界に封印されていたこの特異な銃が普通の性能な訳がない。
ネカフェの漫画を読み尽くし、アニメやゲーム実況を中心に多くの動画を見て生きてきた俺にはふたつ心当たりがあった。
ひとつは[弾数無制限でリロード不要]
銃火器戦闘ゲームのSランククリア報酬などで貰える、俗に言う『無限武器』。この銃は見たことのない正三角形の角を切り落としたような回転する弾倉を持つリボルバーガン。つまり、装填できる弾は3発しかない分強力な武器ということだ。そんな威力の武器がリロード不要となれば、圧倒的脅威なのは間違いない。
もう一つは[魔法をチャージして、それを弾として打ち出せる]
魔法の世界ならば、銃弾も魔法で出来ていてもおかしくない。そうなれば当然、弾薬は不要。もし相手の攻撃を吸収し、自分の攻撃エネルギーとしてチャージできるとすれば、この世界では封印されて当然のチート性能だ。こちらから攻める場合も、前もって魔法を込めておけばいい。そうなれば、仲間達の最強魔法を一つに集約させて放つ胸熱な必殺技もできるだろう。
どちらにしても凄い性能だ。なんとなく後者っぽい気がするが、見た目だけで性能を判断出来ている自信がない。
ワクワクしながらひょいっと銃を持ち上げた。
見た目よりもさらに軽かった。
そして、試しに銃を構えてみる。
……が、何も起こらない。
勝手な想像だが、頭の中に使い方が流れこんできたり、指示が聞こえたりするものと思っていた。
だが、そんなことは無かった。
残念ながら取説機能は備わっていないようだ。
だからと言って、この狭い空間で威力も分からない銃を試し撃ちするほど俺はアホじゃない。
試し撃ちに適する場所がこの辺りにあるのだろうか…。
そんなことを考えながら銃を見つめる俺に、何かを見つけたカノンの声がかかる。
「フーガ!蓋に何か書いてある!」
彼女の位置からは箱の蓋の内側が見えたらしい。
「なんだって!?…おお!ホントだ!」
箱をより大きく開いて蓋の裏を見ると、数行に渡って文字が彫られていた。
そこに取説があったのかと納得する。
プラモデルの箱にこういうタイプのがあったのを思い出した。
一瞬だけ見たことのない文字が見えたが、次の瞬間ぐにゃぐにゃと日本語に変化した。彫られている文字が無理やり変わるCGのような出来事が目の前で起こった。
「魔法の力ってスゲー!」と関心し、目を通す。
【4つの王家の伝承を聞き集め、“神の礫”を受け継いだ賢者様へ。あなたの時代において再び“神の枝”が必要になることを残念に思います。あなたが築く新しい時代に、平穏と調和が訪れますように】
─今の俺は、カノンのお姉さんがかけてくれた魔法によってこちらの言語を日本語に翻訳されているらしい。
しかも、言葉に漢字が当てられた感覚もあるので、初めて聞く言葉でもなんとなく意味が分かる。
さらに今、おそらく古代文字と思われる文字でさえ視覚的に翻訳してくれた。
かなり凄い魔法だ。
だがしかし、丁寧に現代語訳までしてくれたおかげで“それっぽさ”が全く感じられない。
これじゃ手紙だよ…。
というか、この翻訳魔法はさっきから固有名詞さえ変換してきて地味に困る。せめて人名はそのまま聴こえるようにして欲しい…。
とりあえず、この武器の名前は“神の枝”ということは分かった。封印した人からの手紙からしてかなり強そうだ。
だけど、何かが変だ…。
まず俺は賢者じゃないし、王家の伝承も何も知らない。
“神の礫”…なにそれ?
しかも、勝手に新しい時代をつくることになってるし、その平和を願われてる………。
あれ?…これって本当に…俺が今、手に入れても良かったのか……?
4つの王家…カノンが言ってた四都とやらにいる王族だろう。そんな偉い人達から伝承を聞くなんて…普通の人は会うことさえ叶わないはずだ。
それこそ、偉業を成し遂げた冒険者や勇者にしか成し得ない。
しかも、それによって“神の礫”を手に入れることで初めてここに辿りつけるかのような、この言い方…。
やべぇ…やらかした……。
想定されてたストーリーぶち壊した!!!
『実はスタート地点に伝説の武器が封印されていたんだよ、びっくりしたでしょ!!』
っていう、神様が仕込んでいたサプライズを台無しにした…!!!
いや、でも、これでよかったりするのか?
いつまで経っても、誰も見つけてくれなかったから、処分を兼ねて俺に見つけさせたんじゃないか?
…《勘》の冴えがイマイチ…。
今のどちらでもないのか…?
様々な考えを巡らせた末に
「…何にしても、封印を強力なものにして、もっと見つかりにくい場所に置かなかった神様が悪い。」
開き直って装備することにした。
だいたい、これが無ければ俺は丸腰だ。
異世界召喚するなら、せめて一式の装備や資金を用意すべきじゃないだろうか。
俺は神様に届くように祈りながら要求する。
(神様。もしこの武器を元の場所に返して欲しければ、今すぐ代わりを下さい!!)
…………よし、許可は貰った。
こうして俺の職業は銃手になった。
次の目標は銃の性能と使い方を試せだ。
「カノン、“神の枝”をゲットしたぞ。使い方は分からんが、かなり強そうだ」
「“神の枝”…?その名前、どこかで聞いたわ」
思いがけない言葉を聞き、問い詰める。
「どこで!?神話か?御伽話か?」
「え、いや、多分、お菓子の名前よ。そんな名前のお菓子をお土産にもらったことがあるわ」
日常生活感に溢れる答えに思わずズッコケた。
確かにありそうだけどさ!!
しかし、今の発言、それはそれで気になる。
お菓子の味ではない。存在そのものだ。
お腹減ってるせいで、味も気になるが…。
[この世界は今、どんな状況なのか]
この問いは俺にとって、もの凄く重要だ。
田舎娘のカノンの口から学校やお菓子という言葉が出るのは、この辺りが平和で豊かな証拠ではないだろうか。
なぜなら、教育というのは社会が安定していなければ行えないし、甘味が気軽に庶民の手に入るのも経済が豊かでなければ難しいからだ。
となれば、少なくとも日本の高度経済成長期には匹敵するだろう。つまり、俺のよく知るファンタジー異世界とはちょっと違うことになる。
…だが、世界を救えというからには、やっぱり魔王とか破壊神みたいな世界を滅ぼしかねない悪の親玉がいる筈だ。
そんな、まだ見ぬ強敵達に俺は詫びを入れる。
順番無視して、最初に神器を手に入れちゃってすいませんと。
その時、外から渋い男性の声が響いた。
「おーい、カノーン!こんなとこに大穴開けて、いったいなにしてんだー?」
「あ……忘れてた!!まぁでも、ほらね、言った通りだったでしょ?」
なにやら自慢気にそんなことを言ってきた。
いったい何を忘れたんだ?と呆れながら階段の下まで来る。
…見上げた先ではラニッシュおじさん達が愉しそうに笑っていた。
「やっべぇ忘れてた!!!」