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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第2話 part3

「ちょっと!置いてくなんて酷くない!?」


後ろの方から喧しい声がする。

俺は階段を降りきって少し進んだ所で立ち止まった。言い訳を考えてなかったので、ノリと流れで置いてきた事を後悔しつつ、即興で言い訳を言い放つ。


「…一応、未知の遺跡だろ?女の子に率先して入らせる訳には行かないと思ってさ」


だいぶ突発的な意趣返しにも慣れたので、そろそろ顔を見て話せるようになろうと…




「…私、女の子じゃないんだけど?」


「…はい?」


顔色をうかがったところ、その表情はいぶかしげで、嘘や冗談ではないことを示していた。


そして…時が止まった。





「え、じゃあ、な…」



そ、それはつまり、男のk…


「私はもう大人よ?大人!!学校だって卒業してるんだから!!」


…そして時は動き出す。



「あーはいはい。そうですね!おとなですね!どうぞどうぞ!お先にどうぞー」


今のは嘘じゃないと分かった段階で、早とちりした俺が悪い。

でも、騙されたみたいでモヤッとする…!!!



「なによ、馬鹿にして!ていうか、フーガが逆に老けてるのよ!18とかサバ読んでるでしょ!4つ上の“誠実”義兄さんより年上に見えるわよ?」


翻訳の効果によって、カノンの言葉は漢字を伴って伝わる。


「はいーっ!?え、ていうか、お姉さんもう結婚してたの!?」


老けてると言われたのは生まれて初めてだ。

そして、同い年くらいの、あのお姉さんが急に遠い存在になってしまった。


「そりゃそうよ!おねーちゃんは22よ?5年も前に結婚してるわ!」


「そう…だったのか…」


違う、そもそも同い年ですらなかった。

ここに来て驚愕の事実が判明した。


混乱する前に一旦、情報を整理しよう。



─こっちの世界は結婚が早いようだ。

カノンが16歳で大人と言い張り『まだ結婚してない』とか言うのだから、遅くとも16歳には大人扱いされ、また結婚適齢期となると思われる。


そしてもうひとつ。

大人の見た目が比較的若い。

22歳のお姉さんやお義兄さんの見た目は、こちらの18歳と同じか、むしろ低いようだ。

だが、カノンは何故か一致している。

彼女が他より大人びてるという可能性…。

いや、それはないな。

じゃあ16を過ぎると見た目の変化がゆるやかになって、大人の仲間入りか…?そんな気がするな。


にしても、18歳の俺がこっちでは21〜23歳程に見えるのか。



「まぁ、呆然とする気持ちは分かるわ…。でも、うちのお姉ちゃんは頭が良いから、人をおちょくるのが大好きなのよ?その癖に、天然の入ったドジだから!」



考えるのに夢中になっていた俺には…



「…まじか、そいつはショックだな…」


カノンの声は届いてなかった。

なので、テキトーに相槌を打った。


情報処理しながら雑談できるほど、俺の頭は器用じゃない。だが、《勘》による返答で、話の流れに合わせられる自信はある。



「えっ……。やっぱり…フーガから見ても、私みたいな平凡なより、お姉ちゃんみたいなのが…いいの?」


「………はい??」


訂正しよう。

そんな力はなかった。


なんか、気がついたらギャルゲーやっててヒロインがショック受けかけてたんですけど。


えっ…どうするよ?


こういう時は《勘》に頼れる選択肢が欲しい。

一番いいルートを頼む。


①そんなものはない

②現実は非情である


ポル○レフの気持ちが痛いほど分かる…。


…いや待て、そもそもどうしてこうなった……?


カノンの表情やうっすらと耳に残る会話を元に、なんとなくで答えを得た。

次に、勘違いしたら『勘違いプリースト』の称号を授けてやろう。



「また勘違いしてるみたいだが、俺は別にお姉さんのことが気になってた訳では無いぞ…?」


「え!?嘘、そんな訳ない!!だって今、明らかに落ち込んでたし!!」


「そもそも、そこが勘違いだ!やっぱり普通じゃないな、この『勘違いプリースト』は!!」


「『勘違い“神官”』!?いや、でも…だって……!」



「まぁ、別にそういうとこ嫌いじゃないけどさ…」


「「!?」」


すいません安東先生、俺が間違ってました。

なんか流れで自然に会話をしてたら、こんなくっさい台詞がスッーと出てきました…。


でも、超恥ずかしいんですけど!!!

イケメンどもは何でこんなの平気で言える!?


二人して顔を紅くした。

その空気は耐え難く、逃げるように俺は奥へと駆け出した。だが逃げるようにであって、別に逃げたわけじゃない。

最終目標はおじさんを助けること。

それなのに、また時間を浪費してしまったから急いでいるのだ。


「そんなことより、先に行くぞ!!多分この奥に伝説の武器とかが封印されて……」



自分で言っておきながら、大変な事を忘れていたことに今、気がついた。


「な!?また置いてった!!だいたい、なんでそんなことわかるのよ!その推理力で乙女の心を弄ぶなー!!」


さっきまで見惚れてたり、赤面し合ったりした美少女の声も、動揺で耳に入らない。


「……封印!?おい待て…。それって、そんな簡単に解けないんじゃないか!?」


誰かが嘲笑うかのような不快感と不安を覚えたまま、不自然なほど罠が全く仕掛けらていない地下回廊を駆け抜けた。



─────────────────────



“天の緑”教会の地下15mにある古の祭壇。

そこに至るまでの地下通路には太い木の根が張り巡り、地震などの天変地異から悠久の時を通して守り抜いているようだった。

40mほど続くその回廊を進めば、太い円筒形の空間に出る。そこは神秘的かつ新鮮な空気が満ちていて、微かな光でも葉を茂らせた枝が至るところに生えている。地上で作った酸素を放っているのか、闇に近いこの状況でも酸素を生み出せるのか…。どちらにしてもこの部屋を一定の酸素濃度に保っているようだ。


通路の終点の壁で先程と同じ“給魔口”が薄緑色に誘うに点滅していた。


カノンが右手をがさすと、部屋全体に魔力が充填される。やはり、使われる魔力は少量のようで未だ右手は燦々としている。細い光の筋が両壁に沿って奥へと進む。何度も分岐し、孤を描き、様々な模様を浮かび上がらせながら、最後は枝に沿って葉へ注がれる。すると、逆光合成とでも言わんばかりの光を放ちだし、あっという間に明るくなった。


「…うちのコンビニといい勝負だな」

と、腕で目を覆いながら少しばかりの懐かしさを込めて言葉を漏らす。



少し高くなった中央には棺とも祭壇とも取れる台座が見える。ここに来て罠があるとも思えなかったが、用心して進むべきだろう…。


「凄い!地下にこんな場所があったのね!!我が家が観光名所になるわ!入場料はどのくらい取れるかしら?それにしても、この葉っぱ綺麗〜!あれっぽっちの魔力でこんなに光るなんて凄い…!」


カノンは興奮しながら遺跡の石壁から生える枝に接近し、不思議そうに見つめている


…慎重に進むべきなんだ。頼むから、うろちょろしないでくれ。


「ねぇ、ここって私の家の地下よね?なら、宝物の所有権って私にあるんじゃない?」


「…結構地下で動いたし、もう敷地の外じゃないのか?てか、発見したのは俺なんだが…」


考えてもいなかったことだが、どちらかというとカノンの言い分は正しい気がする。


RPGでよくある神殿に封印された伝説の剣。

あれって、勇者にしか抜けないとしても、抜けた後に所有権を主張すれば神殿の管理者のものとなるのではないだろうか。

実際は、勇者にしか使いこなせない等の理由で結果的に譲っているのであって、現実はそんな簡単じゃないはずだ。


ここで武器を見つけた場合、それを俺が貰っていいのだろうか…。

いや、そうでなければ困るのだが…どこの誰とも分からない人に使用許可をくれるというのは、何とも都合の良い話に思えてきた。



「なぁ、ここに封印されてる武器は俺が持っていってもいいのか?」


カノンがこの質問にどう答えるか。

それによって話は大きく変わるだろう…


「んー?別にいいよ?」



おぉ…何とまぁ都合の良い…。

ちょっと悩んでしまったじゃないか。



呆れながら祭壇に近づくと箱が見えた。

だが、ただの箱ではない。

その厳重さはまるで木製アタッシュケースだ。


どうやらこれが、心配していた封印のようだ。


これならば、もし開かなかったとしても箱ごと持っていけばいい。敵の攻撃を防ぐか、逆に利用して開けられるだろう。



一般人の自分には、そんな立ち回りが出来るはずがない。それでも安心している自分がいる。自信を持って手を伸ばす。


この自信は先程手に入れたものだ。


気絶したが、言葉は通じるようになった。

バルスされたが、視力もどうにかなった。

そして、隠されていたとはいえ、俺の目の前には神々しいチート武器が封印されている。

何も貰わずに来たというのに、大した苦労もしないでその日のうちにどうにかなりそうだ。


これはおそらく、偶然を装って装備を整えさせるように神様あたりが働きかけている。不自然なほど苦労せずに話が進むので、そんな気はしていたがもう確信した。


─俺は今までの境遇を物語に見立て考えている。


あらゆる漫画やゲームの物語を読破したことで、主人公には色々なパターンがあることを知っている。今までの自分の行動と結果は、裏で色々と運命を操作されているタイプの主人公に近かった。


これは本来なら、そのことに気付かない。

物語の最後のほうに、裏で操っていた者から知らされて初めて分かるものだ。

自分の意志で決めて行動してきたと思っていたが、実は全て誘導され手の平の上だった、というやつだ。

これは逆に言えば、自分の思った行動こそ最適解であるということになる。


これにより、自分の行動に自信がついた。

今の自分には主人公補正がかかっている。



「この後は、おじさん達を助けて感謝されて終わり…ってところか?ハハッ、物語を先読みする主人公なんてダメだろ」


ここまで全て順調に問題を解決している。

思いもよらない出来事というのは、やはりそうそう起こらないのだろう。



そう思ったのが…



フゥオオオオオオオオオン!!


ガンッ!


「………。」


フラグだった。


無情にも出現した紫色の結界に阻まれ、武器の入った箱に触ることは出来なかった。


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