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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第2話 part2

「この裏に穴があるよー!」


俺は声の元に駆け寄る。

発見した少年は脚付き横長のチェストの下をのぞきこんでいた。


一緒になって見てみると、確かに壁に穴が空いていた。その穴はチェストによって上手く隠れていたので、これは子供の目線でしか見つからなかっただろう。


よくよく見るとチェストの配置に違和感がある。



まるで、壁に空いた穴を隠すためにチェストが横にずらされたかのような…


「よし、チェストを動かすぞ!手伝ってくれ!」


「う、うん。分かった。フーガはそっち側持って。せーのっ!」


ゴトンッ!


チェストの中身は空らしく、思ったより重くない。チェストを前進させるように動かすと、後ろの壁にポッカリと空いた穴が顔を出した。

だが、中に怪しいものは何も無い。


誰が何の為に…いや…隠蔽工作の可能性も…。


そこまで考えれば、後はなんとなくで分かる。


「…どうやらこれは、おてんばプリーストが悪ふざけで開けてしまった穴のようだな。」


カマをかけるように告げて、横目で近くの神官プリーストを見る。


「え!な、ん!?わ、私じゃなくておねーちゃんだからねっ!?」


焦る素振りを隠しつつ、そう言って彼女はチェストを押して穴を再び隠した。これで少なくとも、彼女1人の力でも動かせることは立証された。



だが、こんなことはどうでもいい。



溜め息をつき、再び探索に戻る。



───────────────────


…やはり、本命だけあってなかなか見つからない。まだ調べていないのは左奥にあるドアだけだが、おそらく居住空間に繋がっているので、探すだけ無駄だろう。


となると、やはり…



「この神鏡が怪しさ満点だな。やっぱり、なにか秘密があるんじゃないか?伝承とか、言い伝えとか…。そうやって合言葉や暗号が伝わってたりしないのか?」


祀られている鏡は、RPGなら何かしらの仕掛けがあってもおかしくない存在感を放つ。

それゆえに、フラグが立たなければいくら調べても『勝手に触れるとバチが当たりそうだ』という主人公の謙虚さを表すセリフが延々と表示されそうだ。


俺にここまで思わせるのだから、絶対に何か秘密が隠されている。

だが、それが何かまでは分からない。

頼みの綱はここの神官を務める彼女だけだ。


「うーん…残念ながら、それらしい事は聞いたことないわ。神官としての知識も、この村が出来たときからずーーーっと“神様”は私達の生活を、この鏡を通して見守っている、って事くらい だし……」


「……それでよく神官になれたな」


「なりたくてなったわけじゃないもの!イマドキ世襲なんて古臭いと思わない!?」



この世界の常識イマドキを知らない俺に逆ギレされても、何も言えないのでやめて欲しい…。確かに旧時代的だが、魔法が存在する世界では時代の進み方も違ってくるのではないだろうか。



「まぁ、分からなくもないが…それより今は武器だ。急がないと、取り返しがつかない事になるぞ?」


「おじさん達がこの間にやられちゃうなら、この村はとっくに滅んでるから。多分、まだ大丈夫よ」


なんなのその自信…。

ラニッシュおじさん含め、この村の人達は何者なんだろうか。人里離れた地にひっそりと暮らす伝説の勇者の子孫の村とか!?…じゃないみたいだけど…。


「それで?神鏡を調べるんだっけ?」


…なんにせよ、後で調べれば分かる。

護身用の武器を手に入れるのが先だ。


「そう、できれば壁の前から退けたいんだけど…。これ御神体だよな?やっぱ触らない方がいいか?」


「うーん…。割れたりしたら困るし、動かさないに越したことは無いんだけど…。鏡を調べるのはこのままじゃ駄目なの?」


「いや、鏡そのものよりも鏡の裏とか、隠れてる壁とかが気になるんだ」


「…どういうこと?」


カノンは首をかしげる。

この様子なら説明すれば許可を貰えるだろう。


「これだけ立派な鏡だと、動かすのも一苦労だ。カノンの言う通り、もし御神体に何かあったら大変だからな。見たところ鏡はしっかり掃除されている。なにか変わったものがあればとっくに気づいているだろう」


表面はピカピカに磨きあげられて、絨毯も土足で乗るというのにゴミは一切見当たらない。


「でも、鏡っていうのは表面おもてめんしか使わないものだ。だから、わざわざ動かして、見えない裏側を綺麗にはしてないんじゃないか?」


まぁ日本ならそんなことはないだろうが、ここは異世界だ。実際、鏡の裏側には埃が溜まっているのは確認済みだ。



「…たしかに!!えっ?じゃあ、つまり…鏡の後ろに隠された秘密があって、でも、誰にも気づかれてないままの可能性が…!!」


「そのとおりだ。という訳で動かしても……」


いいですか、と聞こうとして……



「なんてこと!?長年住んでいながら、全く気にならなかったなんて…!!私の家に…全然、普通じゃないものがあった事に………!!」



…まるで人生を否定されたかのようにショックを受けている、どうみても普通じゃない神官に後ずさりした。


彼女も気になるようなので外してしまおう。

念のため二礼二拍手一礼してから鏡に手をかけた。

この際、形式は違ってもいい。

大事なのは気持ちだ。


引越しのバイトで習得した技術スキル《梃子の原理持ち》を駆使して、ダーツ台より一回り大きいくらいの鏡を抱えるように持ち上げる。


少し蹌踉よろけたものの、何事も無く絨毯に乗せる。鏡を寝かせたそこは、この世界に初めてやってきたときに寝ていた思い出の場所だった。

そして、子どもたちに頼んで絨毯で鏡を包んでもらい端の方へと動かした。


蹌踉よろけたのはお腹が減っていたからだ。元に戻す前に何か食べとかないと、今度は危ないかもしれない…。


「おい、そこのアブノーマル・プリースト。落ち込んでないでこっち来いよ」


時間が無いというのに落ち込む彼女を、悪態を着いてそう呼んだ。


アブノーマルを否定しないどころか、ちょっと嬉しそうな神官プリーストは露わになった壁の前に来るやいなや、その仕掛けに気がついた。


「これは…“給魔口きゅうまこう”!?かなり古いけど、この村の紋様そっくり…。こんなものが…凄い!普通じゃない…!これこそまさに待ち望んでた展開っ!!!」


「それはもう分かったっての!それで?その仕掛けは動かせるのか!?」


「ええ!これなら魔力を注ぎ込めば動くはずよ!………ふぅ…」


深呼吸をして、カノンは右手を突き出した。

その右手は緑色に輝き始める。


あっという間に眩い光を宿すと、円の中に木が並んだような紋様に徐々に近づける。


──“給魔口”とは魔法エネルギーの供給口のことである。いつの時代の装置でも、放出魔力さえあれば動かせる仕掛けの総称だ。これが用いられていたのはまるで、長い年月眠り続けることを見越していたかのようだ…。



「あれっ?もういいの?」


そんな間の抜けた声がした。声の主の右手はまだ眩い光を放っている。


「どうした?魔力が余ったのか?」


「うん…どれくらい必要か分からなかったから少し多めに出したんだけど、ほんのちょっとしか使わなかった…。どうしようコレ…。」

そう言って未だ燦々(さんさん)と輝く右手をプラプラさせた。


「まだ使うかもしれないし、一応とっとけよ。それよりそこ。危ないんじゃないか?」


その直後、勢いよく紋様から出た光の線が、床を伝って教壇まで結ばれる。その線で分かれるように、石の床が開くように消えてゆく。



そんな神秘的な出来事に子どもたちは歓声をあげ、興奮した面持ちでぽっかり開いた入口をのぞき込む。一方の俺は、もっとゴゴゴゴ!とそれっぽい地鳴りと共に開いてくれてもよかったのに…と少しだけ残念に思った。


石床の下には下り階段があった。

だが、これはどうみても植物で出来ている。それにかなりの急斜階段だ。

40cm近い段差がそれよりも狭いステップで連なっている。そのお陰で教壇に頭をぶつけることなく降りられるが、奥は地味に暗い。

“千里眼”の効果かもしれないが、なんとか地下でも見えそうだ。


だが、明かりはあった方がいいだろう。


「よかったな、早速役立つぞ。その右手」


「ふふっ、そうね。魔力効率、悪すぎだけど」


「……もしかして、明かりの魔法も使えるのか?」


「そりゃ勿論よ!誰がこの教会に明かりを灯してると……」


「おねーちゃんじゃないのか?」


声を遮るように、なんとなく思った事を口にすると…


「…高所恐怖症のおねーちゃんには、あの上の方の燭台に火を灯すのは無理よ?」


「そこだけだろ?」


「…さっきもそうだったけど、なんでそんなに鋭いの?…私って、そんなに分かりやすい?」


それは鋭いツッコミとなってダメージを与えた。


「まぁまぁかな。普通にしてれば普通の人には分からないぞ。」


「それは悩みどころね……。もしかして、フーガは探偵か占い師?」


「なんで悩むんだよ……。仕事は、アルバイトを四つ掛け持ちしてた。…この場合、職業はなんて言うんだ?アルバイター?フリーター?」



「ええっ!?いや、もっと向いてる仕事があったでしょ…!!……何か事情があるのね?いえ、これ以上は聞かないでおくわ…。あ、でも気が向いたら、話してくれてもいいんだよ?それにもし、仕事がなくなったらここに勤めればいいんだし!!」



何か勝手に自己完結してるが、気にせず進もう。


忘れてるかもしれないが、一応カノンは美人だ。


質問する時くらいしか顔を見ないようにしているのと、異世界テンションとでも言うのか、未体験の胸の昂りのお陰でなんとか普通に会話できている。



それなのに、からかい甲斐のある反応をするせいで話しをすればする程、イジってみたくなる…。


これ以上の会話は墓穴を掘りかねない。



カノンが子どもたちにここで大人しく待っているよう言い聞かせてる間に、サッサと地下へ降りることにした。

話さなくてもイジることはできるのだ。

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