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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第1話 part3

大地を揺るがす衝撃音と震動で飛び起きた。


教会の長椅子に横になり、額で冷たい水がゼリー状になり留まっていたようだ。

起きた拍子にずり落ちて弾け飛び、静寂に包まれた教会内にパシャッという音が反響した。


魔法で作られたと思しき氷嚢。

枕替わりのふかふかタオル。

この世界の生活も割と豊かなようだ。



どれくらい寝ていたのだろう。

窓からの日差しは遅くとも昼頃だろうか。

それなら、こちらに来たのは恐らく朝だし長くても数時間だ。




その数時間の睡眠で…


夢を見て詳しい説明を受けたり、



神様が現れて凄い能力を授けてくれたり、



起きると見慣れない武器を手にしていたり、




…なんてことは一切無かった。


それどころかさっきまでの記憶も曖昧だ。

ここに来る前に見た、唯一の手がかりである変な夢も正確に思い出せなくなっている。


この非現実的な出来事に対して何も説明が無いというのは、余りにも「お約束」知らずだ。



…それに、この状況もおかしい。


「起きるまで看病…いや、見張りか?なんにせよ、 人をつけるよな…普通………てことは、異常事態?いや、でも教会なのに避難してくる人がいないなんて変だよな…」


体育館並に広い教会に、人の気配はない。

耳鳴りがするほど静かで不気味…




\ズッドーーーン!!/




静寂を打ち破るように爆発音が響き渡る。

この状況でこれは、かなり心臓に悪い。



「おわぁあああっ!?…そ、外で、なにが……」



せっかくの異世界なのに、次に何をすべきかが分からないので話が進まない。


パニックとストレスで頭がおかしくなる。


「ああああっ…もうっ!!訳が分かんねえええええ!!!」


何をしようにも圧倒的に情報が足りない。

人がいない以上、ここが安全かも分からないのにジッとしている余裕はなかった。



素早く入口へと駆け寄る。何故か寝るとき脱いだはずの靴をいつの間にか履いていた。

今の所、こいつが唯一の救いだ。



木製の両開きドア、その左扉に身を寄せる。

少しだけ押し開け、覗きこむが……。



なんせ視界がボヤけるので何が起こっているのか、全く分からない。


それでも限られた隙間から見回して分かった。


ゲームや漫画のお約束で勝手に小さな村の教会だと思っていたが、実際は街の教会だったということ。


年季入りの頑丈そうな石造りの建物が、教会前の通りに沿って続いている。ボヤけるが、ずっと建物が続いていることくらいは分かった。


そして、まだ昼間なのに誰も通りにいない。


いたところで会話はできないが、穏やかな街の雰囲気に合わない不気味さは教会の外にまで広がっていたのだ。




\ドッカーーン!!!!/




再び衝撃が走る。先程の衝撃よりも大きく空気が震えるのを感じた。


どこかで尋常じゃない爆発が2発、いや目覚ましになったのを入れれば3発以上起こっている。




……パタン


俺は無言で扉を閉めた。



そして、扉に背を預けるとため息と共にズルズルと座り込んだ。



武器も知識もなく、言葉さえも通じない。

そんな状態で未知の現場に駆けつけたところで出来ることなど何もありゃしない。


それどころか、視力さえも劣っている。

今の俺ではただの野次馬にさえなれないのだ。


せめて…


「メガネがあればな…。脱いでた靴は履いてんだ。なら、眼鏡だって絶対に……!」


俺の視力は0.06の超近視。

眼鏡がないと生活に支障がでるレベルだ。


─《勘》に頼ろうにも、ここは俺も知らない異世界の全く知らない場所だ。

この世界に一緒に送られているのは間違いなさそうだが、そのありかまでは分からない。


今は詳しい説明を省くが《勘》も所詮は勘。

未来予知の超能力などではない─



八方塞がりになり膝を抱えた。


これは異世界送りという名の島流しだ…。

冤罪で、地味な嫌がらせが追加されている…。

帰りたくても、当然帰れない。


泣きたい…。


日が経つにつれ薄れていた孤独感が、ここぞとばかりに込み上げてきた。


底なしの悲哀に飲み込まれ、溢れる涙は嗚咽混じりに膝を濡らした。



…泣いていたせいで、この教会へと近づいてくる複数の足音に気が付かなかった。



「さぁ、早く!!中に入って…うぇっ!?だ、誰っ!?」


威勢の良い少女の声と共に、扉が勢いよく開け放たれた。


その声は、俺の意識を悲しみの底なし沼から引っ張りあげた。


「すいません、すぐ退きます!」


俺は慌てて横に飛び退き、転がりながら反射的に謝罪する。


すぐに謝るのは日本人の悪い癖、だ…



…日本人?



日本語!!?



慌てて見上げると、これまた緑の少女と幼稚園くらいの子どもたちがいた。


高校生くらいと思われる彼女は、さっき攻撃をしかけてきたシスターさんと纏う雰囲気が少し似ている。…妹さん?



だが、それよりもっ!!!!



「俺の言葉わかります!?通じてますか!?」



焦っていても丁寧語。

接客業バイトの賜物だ。


「え?ええ、もちろん!!さぁ、みんな奥に進んで!大丈夫だから、押さないで!あなたも早く立って立って!!奥に進んでっ!!」


「いったい何が起きてるんですか!?あと、言葉はどうして…!」


「分からないから避難してきたの!言葉はおねえちゃんがなんとかしたって!言葉が通じないなんて、貴方いったい何者!?…ハッ!もしや、この騒動の黒幕!?」


そこまで言うと飛び退いて距離を取った。

初対面の年下女子にタメ口で失礼なことを言われ、丁寧な口調は吹き飛んだ。



「違うわっ!!むしろ拉致誘拐事件の被害者だ!何故か知らんが、起きたらここにいたんだよ!!」


「えぇ!?こっちでも事件が!?凄い!一度に色々起こりすぎよ!!ワクワクしてきたわ!!」


「なんでだよ!?言葉が通じたと思ったら、今度は文化の壁にブチ当たるかよ!!!」


「……おにーちゃんおねーちゃん?教会ではしずかにしなきゃだめなんだよ?」


「お、おう、すまない」

「あぁうん、ごめんね」


言葉の壁に塞き止められることで溜まっていた不満は、このおかしな少女によって放たれた。

だが、小さな子どもに窘められて我に返る。


泣いたことで気持ちが整理されたのだろう。

今はだいぶ落ち着いている。



言葉が通じた理由わけは後で聞こう。

お陰様で、聞かなきゃならないことは他にいくらでもある。



もはや怪しまれるのは覚悟の上。

聞き倒してやろうと決意する…


「ねぇ、ちょっと質問していい?」



先に問われるとは思っていなかったので決意が少し緩む。


だがまぁ好都合だ。

そう思って肯定すると…



「えっとね。私のこと、どう思う?」


「………へ?」


この娘は初対面の俺に、脈絡もなくこんな事を言ってきた。


もっと他に聞くべきことがあるだろ…。


「頭おかしいんじゃねぇのか…」


おっと、本音が漏れた。

だが、答えになっているので問題ない。



「つ、つまり普通じゃないってことよね!?」


謎の食いつき。


「そうだな、普通なら初めて会う人にそんな質問はしない…。あと、この状況で警戒しないのも普通じゃないな」


「普通じゃ…ない。あぁ、なんて良い響きなの!」


少女は恍惚とした表情をこちらに向けている。

なんとなくじゃない。

確実に、この娘は変だ。



神様。

何をしたか知りませんが心から謝りますから。

どうかこれ以上、意味不明な方向に話を持っていかないでください話が進みません。


俺は見たことも聞いたこともないこの異世界の神様にそう謝罪した。


とりあえず今度はこっちの番だ。



「こっちからも質問していいか?」


調子の狂わされた俺は、もはや丁寧語を使う気にならなかった。


「はいどうぞ!分かる限りで答えましょう!!ちなみに私はまだ結婚してません!」


「何をどうすればそうなる…。とりあえず、ここがどこで、君が誰かを教えてくれ。俺は芦田風雅、18歳…日本人だ」


少し迷ったが、出身も添えることにした。

それに対する反応が知りたい。



「ここは“神林しんりんの恵み”村の“天の緑”教会よ!

水都すいと“水神の加護”と地都ちと“土神の結界”のちょうど真ん中にある、農耕牧畜と狩猟採集しかすることのない超が付くほど退屈な田舎村!!

そんな村には似合わないこの私は“翡翠草の芽吹き”16歳、職業は“神官”よ。それで、フーガさん?ニホンジンってどんな職業?どれくらい儲かるの?」


息付く暇もなく答えが返ってきた。


「ごめん、ちょっと待って。色々待って。なんか名前がよくわかんなかった。ヒスイソウノ…?」


「苗字は“翡翠草の”、名は“芽吹き”!」


「ごめん、1音ずつ言ってみて」

違和感を感じ、試しに提案する。


「ク・ロ・メ・リ・ア、カ・ノ・ン!!ちゃんと覚えた?」


「おっけー大丈夫。クロメリアでいい?」


「あー、出来れば“芽吹き”で」


「…あっそう。よろしくカノン。で、日本人についてだっけ?職業じゃなくて、出身の意味で言ったんだが…」


「え?ニホンジンは場所の名前なの!?そんな場所知らないんだけど、いったいどこにあるの?どの辺り?どの四都しとが一番近い?迷子なら、わかるとこまで送って行こうか?」


「あ、ありがたいんだけど、ちょっと詳しい場所が思い出せないかなー…」


どうしよう。

思った以上に話が噛み合わない。

彼女の様子からして、俺のような拉致被害の前例はなさそうだが、彼女が知らないだけの可能性も十分にある。これっぽっちの情報で判断できるほど《勘》は正確じゃない。




\ボッカーーン/




カノンの質問攻めは忘れていた爆音が轟くことで遮られた轟いた。


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