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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第1話 part2

─居眠りしている時、身体がビクッとしたり落下するような感覚を味わった事はあるだろうか。


授業中にウトウトしていたら、ガタンという音と衝撃で目を覚ますものの、原因は自分で机を蹴ってたからだと知って恥をかくという生理現象のイタズラだ。


この現象は「ジャーキング現象」や「スリープ・スターク」と呼ばれている。夢の中でも落下する感覚があるのはこれが原因だと言われている。



何が言いたいかというと、


「夢の中で落ちたと思ったが、実際は落ちていなかった」としても何ら不思議はない。


むしろ、


本当に落ちている方が珍しいのだ──




俺の感覚器官が急に覚醒した。

まさにハッと気がつく、という感じだ。落ちる感覚があると、人は本能的に目を覚ますらしい。



視界には見覚えのないのっぺりとしたベージュ色が広がっている。

体勢は仰向けだから、あれは恐らく天井だろう。

ボヤけているが10mほどの高さだと思われた。



まだ寝ぼけているが無意識に眼鏡を探そうとして、背中にジワジワと広がる痛みに気がついた。



ボヤける視覚とジワる痛覚に続いて、段々ハッキリとしてきた意識と全感覚が次々に告げてくる。


聴覚は周囲に人がいることを認識している。


嗅覚はアロマキャンドルのような神聖な香りを感知した。


味覚曰く、空気の味がいつもより美味しいらしい。


触覚は寝そべる床に絨毯のような柔らかさを捉えていた。


そして、緊急時にお世話になる六つ目の感覚がこう言い切った。



“俺は見知らぬ場所に拉致された”



「そんな馬鹿な!?」


という第一声とともに、慌てて起きあがろうと腹筋に力を込める。


起こした上半身を後ろ手に両手で支え、足は伸ばしたままの体勢になる。


すると、俺を中心にして人の壁ができていた。


皆、農家や酪農家のような牧歌的な服装のたくましいおじさんやおばさんだ。眼鏡がないのでハッキリとは見えないが、少なくともアジア系ではない。


髪色は黒っぽい緑や茶色に金色。

瞳の色は多分、青や緑。

その表情は驚愕と困惑だろう。


まるで異世界から来た人間にでも遭遇したような…って…まさか…?


体勢をあぐらに変え、少しうつむく。

そして、周囲の視線を気にせずに済むよう目を閉じる。落ち着いて、冷静に思案し判断するためだ。



俺は今、何をすべきか…。



①逃走…怪しさ満点×。

②また倒れる…進展しない△。

③話をする…この手に限る〇。

④眼鏡を探す…最 優 先 事 項◎


ざっくりと考えることおよそ3秒。こういうことを考えるのは、経験上、けっこう得意なのだ。



バッと頭を上げ、たまたま目が合ったおじさんに向けて口を開く。



「すいません、その、どこかその辺に眼鏡は落ちていませんか?」


転んだ人がするような、ごく普通の問い。


こういう状況でいきなり場所を聞くのは、個人的に不自然なことだと思っている。なんとなく怪しまれるのは避けたかったので、場所ではなく眼鏡の行方を尋ねた…。



が、そんな思惑は容赦無く叩き潰された。




「(周りの人に対してなんか言ってる)」


「(おばさんがおじさんに何か言った)」


「(おじさんが俺の方を見ながら何か言った)」




…うろ覚えの英語でも問いかけるが、それらしい返事はない。




たしかにそうだ、隣の国でも言葉が違う。

ここが異世界なら尚更だろう…。

そこに異論はない…。


だが!


世界を越えさせる程の力を持っているなら!

言葉の壁を崩壊させておいて欲しかった!



「…はぁーー…。」

思わず深い溜息が漏れる。



英語でさえも苦労した俺が異世界でコミュニケーションをとるのは無理に等しい。

客観的に見ても怪しさ満点だ。



会話すらままならないこの状況。

これではチュートリアルどころか、オープニングすら始まらない。バグってやがる。



……そもそも目的も曖昧だ。


たしか、さっき夢の中でこう言われた。

『この世界を救え』


って、何から!?どうやって!?

誰かが教えてくれるのなら是非とも日本語で頼む。


いや、今は忘れているだけで実はヒントがあったかもしれない。会話の内容を正確に思い出せるといいんだが………



落ち込んでブツブツと悩む俺を他所に、1人のおじさんが別のおじさんに、外に通じるドアを指さして何か言った。


何か言われたおじさんは「あ〜」と感心した様子で外へと駆け出していった。




それはもう、ものすんごいスピードで…。


……おじさん、足速くね…?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




手探りで眼鏡を探すが見つからず。


あ、これ川柳になってる?いや、字余りか。


何かを探しているのが分かったようで、おばさん達も何か変わった物が落ちていないか探してくれているようだ。


この世界でも人は支えあって生きているという感動が、少しやさぐれた俺の心に響く。



だが、俺の眼鏡(本体)は見つからなかった。


…マジでどこいった。

アレがないと何も見えないぞ…。



またしばらくして、さっきのおじさんが戻ってきた。出ていってから大体6分くらいだろう。


…うん、やっぱり速い。100mなら10秒代で駆け抜けられそうなスピードだ。たくましい身体だが、そんな動きにくそうな作業着でそのスピードは絶対オカシイ。


しかも、俺の《勘》によれば…

“彼はまだ本気を出していない”


正確には、なんとなく全力ではなかった気がしただけだが、とりあえずこっちの農家のおじさんがスゲェ事に変わりはない。


少し遅れて、後ろからシスターさんらしき女性も駆けてきた。ということは、あのおじさんは彼女を呼びに行っていたのだろう。なら、せめて一緒に来てやれよ…。



彼女の息は上がってるようで、入口で立ち止まってゼーゼー言ってる。…そういえばおじさん、汗一つかいていなかったような…。



正直、輪郭がハッキリしないシスターさんよりも素早いおじさんの方がが気になっている。それもそのはず、異世界といえば?と聞かれれば、俺は「凄く強い爺さん」がいると答える人間だ。




そういえば、眼鏡を探しているときに分かったがここはどうやら教会のようだ。


俺の足元には教壇が、すぐ後ろには鏡があった。


十字架や偶像といった類のものは見あたらない代わりに、エメラルドグリーンの装飾を施された縦長楕円の大きな鏡が祀られている。


もしこれがゲートなら、俺が余裕で通れる程の大きさを誇る美しい鏡だ。



…まさか、あそこから?



そんな事を考えていると、さっきのシスターさんが目の前にやって来た。だいぶ息は整ったようだ。


近づいてきたお陰で、だいぶ見えるようになった。

俺と同じくらいと思われるシスターさんは、白と緑を基調に金色のアクセントが施された聖職者らしい装いをしている。

目を凝らして見ると、瞳だけでなく髪の色まで綺麗な緑色だ。顔立ちもけっこう整っている…と思う。

俺は人並みにしか胸に興味はない。

だが、吉田先輩おっぱいせいじんのために一応言っておこう。


でかい。


それにしても…


「ここの神様はどんだけ緑推しなんだよ…。」


と若干の呆れを込めて呟いた。


すると、シスターさんが可哀想な人でも見るような感じでこちらを見つめてきた…と思ったので。



「えっと、もしかして…聞こえました?」


反応としては少し変だが、彼女は神様の加護的な何かで言葉が通じる、という次に繋がるオチを期待して、俺は問いかけた。



しかし、微笑みながら首を傾げられた。



やはり、言葉の壁はぶ厚い。



またも期待が外れ、顔を顰めようとしたその時!


シスターさんが目を閉じて、祈る様に何かを唱え始めた。


その行為に俺はピンときた。


異世界といえば?

…大前提として魔法の世界だろ!!


俺は目を見開き、ワクワクして彼女を見つめる。


すると、期待通りに白色に光輝く魔法陣が俺の下に現れた。


その場にいた人の中で俺だけが声をあげる。

しかし、魔法陣を見るのに夢中でそのことに気づかなかった。



呪文らしい文言を読み上げる声は段々と盛り上がり、それと同調するように光が増していき…


遂に、最高潮に達した!



「すげぇ!これはマジで魔法だ!異世界だ!」



眩い光に包まれた俺は、ここが魔法の存在する異世界であることを完全に受け入れた。


そして、生まれて初めての魔法を目の当たりにして…!


「『ララブ・コム・ニース』ッ!!」


「あがっ!!?」




雷に撃たれたような衝撃が全身を走った。




今の流れでなぜ攻撃されるのか全く分からない。





煙が出ているのではないかと思うほど頭が熱い。





意識も朦朧としてきた。





興奮して立ち膝になっていた俺は、そのまま前のめりに倒れ込んだ。


「キャー!!だ、大丈夫!?え、なんで!?この魔法ってダメージないんじゃ!?………」




薄れゆく意識が困惑気味の女性の声を聞き取る。



走馬灯の代わりに、今となっては懐かしい日本語を幻聴したようだ…。


頭と瞼が、四徹明け並に重い。


俺はそのまま意識を失った…。

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