第6話 part1「彗駆の種 後編」
大ミミズを捕縛して、喜んだのも束の間…。
現在、シュロンとカノンは木の陰でスヤスヤと眠ってしまったため、調査は一時中断している。
…俺が撃ち込んだ【睡眠】の魔弾によって。
─10分前
ミミズを行動不能にしたことで、カノンの拘束からようやく解放された。
「はぁ…ミミズ一匹捕まえるのに、ずいぶん大袈裟なことをしたわね〜」
「まぁあのデカさだしな。ところで、カノンは大丈夫なのか?魔力を吸われても」
「大丈夫じゃないわよ!ていうか、フーガは知らないだろうけど、人の魔力を吸うのはセクハラなのよ?セ・ク・ハ・ラ!」
「マジで!?え、いや!これは不可抗力だって!!知らなかったのもあるけど、俺はてっきり自然の中にある魔力をかき集めるものだと…」
「私達だって自然の一部でしょうに…。まぁでも、不可抗力ってのは認めるわ。次からは、誰もくっついてないのを確かめてから使うのよ?」
「…ちょっと待った。くっついて無きゃ大丈夫だったのか?」
「そうなんじゃない?私の魔力はフーガの身体を伝って流れ込んでたもの。…感じなかったの?」
「…あぁ、魔力らしいものは全く感じなかった」
どうやら俺の身体は魔力が薄いだけじゃなく、その存在そのものを感じ取れないらしい。
それってかなり不味いんじゃ……
「わ、私はむしろ…感じ過ぎちゃったわ〜…。」
…痴女みたいなことをお姉さんがなんかハァハァ言いながら左肩にのしかかってくる。
これこそ、セクハラじゃないのか?
「もー、お姉ちゃん…てば?……ちょっと!?魔力がもうないじゃん!!」
シュロンの様子がおかしい。元からちょっとおかしかったが、体調までおかしくなっている。
和やかな後日談ムードが急変する。
カノンの声調と表情からその危険性を察知した。
俺は緊急時における迅速さには定評がある。
「それ、不味いことなんだな!?どう対処すればいい!?」
「え!?えっと、魔力回復薬を飲ませて…は、ダメだ違う。とっ、とにかく、安静に、動かしちゃダメよ!安静にして休ませるの!じゃないと命に関わるかもしれない!」
「安静にか…無理に村まで連れてけない…。ここじゃ土の上…道までも地味に遠いし………はっ!」
焦りながらもブツブツと悩み、ふと思い当たった策を試そうと行動を開始する。
シュロンを左手で支えながら顔だけで振り向き、今度は片手持ちで地面を撃った。
俺達の後方に【宿り木】の弾が着弾すると、期待した通りに木がニョキニョキ生えてきた。
そして、人が寄りかかれるくらいにまで育つと急激な成長はピタリと止まった。
根っこが地面から露出して広がっているため、土で服を汚さずに座ることが出来る。
ミミズを拘束している木とは違って、葉もしっかりと茂り涼しげな木陰を作り出していた。
ここまで要望を満たしている木が生えたことに対して、驚きの余り鳥肌が立つ。
ミミズの時は偶然かと思ったがこれで確信した。
【宿り木】は望んだ形状の樹木を生やすことが出来る!
「すげぇ!さぁシュロンさん!早くこっちに!」
熱中症のようにぐったりとするお姉さんに肩を貸して木のそばまで移動する。
そして、木に寄りかからせようとして…
「あぁ…クライス…はぁ…」
今度は前からガッチリとホールドされた。
「「ちょっ!?」」
カノンと綺麗にハモった。
お前の姉ちゃん、予測不能にも程があるぞ!
てか、クライスって誰だ?…旦那さんか?
あれ?でもさっきは、“誠実”…
「って!!何してるんですか!?離してください」
「生き物はね…命の危機に、陥ると……本能的に…子孫を……残そうと…だから…ね?」
訳の分からないことを言いながら、虚ろな目で紅潮した顔を近づけてくる。
本当にナニ言ってるんだこの人は!!!
いくら妖艶に迫られたからって、妹の前で姉(しかも人妻)に手を出すアホがいるハズがない。
俺は咄嗟に右手親指を連打して、撃鉄を2回ガチガチッと起こし…
パスッ
シュロンの脇腹に撃ち込んだ。
─────────
「それ、お姉ちゃんの暴走を止めるのに、かなり使えるわね」
「だな…。効き目がどの位かは分からないけど、溜め無しで撃ったし、そのうち目を覚ますだろ。その頃にはある程度、回復してるといいな。」
「そうね。じゃあそれまで休憩〜」
そう言って、無事に介抱し終えたカノンも一緒になって木に寄りかかる。聞いた話によると、寝ているときは魔力も通常より早く回復するらしい。
美人姉妹がか木陰に身を寄せて休む姿は、何とも絵になる光景だ。
こんな絵画を美術の教科書で見たかもしれない。
二人には少し休憩してもらう事にして、俺は今この銃を弄り倒している。
説明書やそういった機能が無い以上、自分で使い方を確認するしかないのだ。
銃の筒の部分の下側にツマミを見つけた。
前後二段階にスライドする小さなツマミは、銃口側に来ている。
持ち手側に動かしてみるが、何も起こらない。
弾の飛距離でも変わったのだろうか。
そう思ったので、ミミズに向けてノーチャージで【睡眠】弾を放つ。
小さな音を立て、水色の弾が発射された。
予想とは違ったが、弾速が目で追える程度に遅くなっている。
…が、次の瞬間
「へ?」
弾が分裂し、直線と曲線の二つの軌道を描く。
一方はそのままミミズに直撃。
もう一方は弧を描いて完全にUターンする。
あとを追うようにバッと振り向いたその瞬間…
座っていたカノンに命中した。
──そんな感じで今に至る。
仕方ないので1人で調査を開始する。
畑を駆け回り、怪しいものがないか探しつつ、先程のホーミング睡眠弾を乱射する。
今の俺は、傍から見たら頭のおかしい奴にしか見えないだろう。
だが、この一帯には人っ子一人いやしない。
ホーミング睡眠弾の仕組みがよく分からないが、なにかに引き寄せられれば、そこになにか居ることになる。
そう思って乱射しているのだが、引き寄せられるのは地面にばかり。
そして、最初の1箇所だけ掘ってみたが大きなミミズがいるだけだった。
大きいと言って、も通常サイズを一段階巨大化させたくらいなのだが…
「十分キモイな…。やっぱり犯人はとっくに逃げたかな…」
とうとう荒れていない区画までたどり着いた。
しかし、見つけたのは中ミミズのみ。
魔法の痕跡があっても見逃している可能性は十分高いので、これ以上はどうにもならないだろう。
だが、最後に一つだけ確認したい場所があった。
とある理由から、荒れた区画の中央の辺りを確認したかった。
その理由?
お待ちかねの「なんとなく」だ。
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無駄に広いのでどこが中心なのかを見つけるのに苦労した。目星をつけるために、荒れた箇所の外周を二周ほどした。
どれくらいの距離を走ったのかは定かではないが、かれこれもう20kmくらいは走っただろう。速く走れるのでなかなか楽しかったが流石に疲れた…。
日もだんだんと傾いてきている。あと2時間もすれば日没だろう。だが、明るい内に村へ戻るとしても、まだ時間はある。
荒れた地面を注意深く探していたら、お目当ての物はすぐに見つかった。
「おっ!や〜っと、みっけたー!」
牛乳瓶と試験管を足して2で割ったような、透明な容器が一つ転がっていた。
蓋も付いていたが、開いている。汚れ具合からしてまだ真新しい。それこそ、さっき使ったばかりのように。
つまり、これにはミミズを更に大きくさせた原因が入っていた可能性が高いのだ。
例えば、魔法をポーションみたいにしてこの容器に詰めることが技術的に可能だとしたら…。
「コイツを調べれば何か分かるかもしれないな」
調査は一歩前進した。丁度いいし、そろそろ二人を起こしに戻ろう。もしかすると、どちらかは起きてるかもしれない。
そんなことを考えつつ、少し重くなった足を動かす。
俺が戻ると、既に二人とも起きてミミズを調べている所だった。