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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第5話 part3

シュロンお姉さんの御命令とあらば、断る理由などない!


気分がハイになっていた俺は、そんな感じのノリで引き返したところ



…挟まれた。



現在、全長60m弱のミミズが接近中。

そして、何故かラブコメ展開も発生中。



全身から大量の情報が一気に脳へと押し寄せる。

人のもつ優しい温もり。身体のいろんな所を同時に触られている感覚。囁くように聴こえるシュロンの吐息。髪や服からする女の子のいい匂い。伝わってくる心音。凝視だけはしないようにしていたカノンが視界を埋め尽くす。



─以前、漫画でこんなシーンを見たときは…


『急に女の子が抱き着いてきたからって、主人公慌てすぎだろ〜、もっとクールに振舞えよ!』


…なんて、主人公を嫉妬混じりに馬鹿にしてた。




うん、無理!!!




「ファッッ!?なっに、を…!?」



絞り出された声は僅かばかりの戸惑いの声。

クールに振舞う、など思いつく余裕すらなかった。



「私達の魔力でフーガの存在を隠すの!こうしていれば、アイツはフーガを見失うわ。ほらっ!もっと寄って寄って!」


「それと、ミミズがまだ残ってることを黙ってたからね〜。それの、お・わ・び♪」



二人が発した言葉の意味を、なんとか理解しようと努力する。

だが、他の箇所…特に背中と腰…に伝わる柔らかい刺激がいっそう強くなり、そちらに意識が割かれていたため耳に残らない。

『存在を隠すため』の行為で、『わざと』である、ということしか頭に入らなかった。



ハイテンションでここまで走って来たこともあり、上がっていた体温が更に上がる。おそらく顔も赤いだろう。紛れもない興奮状態だ。


年頃で健康な青少年である俺の下腹部は熱を帯び、必然の生理現象を引き起こし始める。だが、その直上にはカノンの腹部が密着していた。


(が…!!そこはダメだ…!!)


俺は即座に下半身を正面へと捻った。

そのままでは体勢が辛いので、続けて上半身もグルッと捻る。


それによって、背中にあったムニッとした双丘は触覚の鈍い左肩あたりに移った。


シュロンが小声で「あら〜?どうしたのかな〜?」と、分かってるくせに聞いてきた。見た目は同い年でも、中身は紛れもなく年上の女性だった事を思い出す。

多分、これを提案したのも彼女だろうとなんとなく察した。


そして、腰に手を回してしがみつくカノンは右にズレた。だが、それでも密着具合が半端じゃない。

そこまでくっつく必要はあるのだろうか…。



「イヤッあのっ…い、いつまで、こうしてるん…ればいいんだ?」


まだ声が上ずってしまう。


男としてこのシチュエーションは嬉しいのだが、恥ずかしさと何もできないもどかしさもある為、素直に喜べない。


せっかく銃を撃てると思ったのに、思わぬ美味しい事態になったせいだ。だが、『二兎追うものは…




…いや、まてよ?

別に、このまま、撃っていいんじゃないか?


よく考えれば、その2羽の兎は自分の方から寄ってきていることに気づく。


俺は少しだけ冷静さと戦闘意欲を取り戻した。



「そりゃー、……とりあえずアイツがいなくなるまで?」


「あら、なんなら寝るまででも構わないのよ〜?」



いや、お姉さん。あなた、旦那がいるでしょ…。


そんな余裕のあるツッコミが、口には出せなかったが頭には浮かんだ。どうやら、異世界の武器を使いたい衝動が性欲に勝ってきているようだ。



現状を整理しよう。


まず、この状態ならミミズは襲ってこない。

理由は、俺の少ない魔力の反応を二人の大きな魔力で隠しているからだ。


次に武器。

神器は右ポケットに入っている。ちょうど今、カノンの股がその上にある。お陰で意識を割かれずに済んでいる。


最後に目標。

【睡眠】【麻痺】【宿り木】の効果を大ミミズで試す。こんな大きな的は外しようがないが、一応狙撃の腕試しも兼ねる。得意でも不得意でもないが、これからはコイツに頼るのだ。なるべく早く、狙ったところに当てられるようにしなければ…。


集中するために目を閉じて、無言でそう把握した。


目を閉じたのは、思考力を高める効果があると信じているルーティーンだからだ。




「そう、じゃあ“誠実”にそう伝えとくわ」


「んもーっ、二人とも冗談通じないわね〜」



かつて無いほどテンパっていたはずなのに、今は落ち着きを取り戻し、内からフツフツと闘志が湧き上がる。


理由はなんとなくわかっている。

現実では、どう足掻いても経験できない方を優先しただけだ。



俺はモテるよりも銃が撃ちたい!!!



「…よし、やるか!」


「「なにを!?」」


「このまま練習する。コイツの…なっ!」


そういって、ポケットから銃を取り出す。突起部が少し引っかかったが、気にせずに引っ張り出した。



…カノンが短く甘い声を出したので、少し怯んだ。



煩悩をかき消すように首を降り、俺は両手で銃を構える。3つの内のどれが出るか分からないが、どれが出ても問題ないのはありがたい。


「目標をセンターに入れてスイッチだっ!」


言ってみたかったセリフをいい、銃爪ひきがねを引く。



ヒュイーーーー…



チャージするような音が鳴りだし、銃の所々が淡い黄色の光を放つ。


「んんっ!?」←カノン

「きゃあっ!!」←シュロン


それと同時に、俺にくっついたまま観ていた二人が悲鳴とも、戸惑いとも取れる声を上げる。


見れば、カノンの表情は漏れそうなのを我慢しているような切ないものだった。


「なっ!?どうしたんだ!!?」


「ま、魔力が…んっ!す、吸われてるの!その銃に!!」



だが、それらしい感覚は俺には無い。

元が少ないから?それとも使用者だから?

魔力吸われてて二人は大丈夫なのか?

いや、カノンはまだ平気そうだがお姉さんは震えててヤバそうだ。この違いはなんだ?



いくつもの疑問が浮かぶが、その都度消していく。答え合わせは後でいい。



俺が挟まれてからミミズは接近するのをやめ、重々しく頭を左右に動かしている。俺を探しているのだろう。


撃つなら今だ。

だが、絶好の機会なのに発射されない。


チャージ音は続いているものの、今にも発射できそうな音になっている。


チャージショットみたいに、一定量チャージされれば自動で発射されるんじゃないのか!?



「ああっ…!もう、ダメッ…」


吸われすぎたのか、シュロンはもう腰砕けになっていた。そのため、左半身にかかる重さが増す。


「えっ!?ちょっ!!…!?」


こらえようと力を込めたことで、発見する。



銃爪にはもう一段階、引き幅があった。

軽く握るとチャージが開始され、最後までグッと握りこめば発射される構造だったのだ。


「こうか!!」



ドシューーッ!!


銃声というよりはエアガンに近い音を立てて弾が発射された。風を切る音も混じっている。

どう見ても銃の口径より太い薄い黄色の光線が、ミミズの胴に突き刺さるように着弾した。弾速が速すぎて、残光によって光線に見えるのだろう。



ミミズは頭を持ち上げたまま痙攣している。

間違いなく【麻痺】の効果だ。


それだけ確認し、撃鉄を起こす。

今の狙撃ではここは動かなかった。

その情報を元に、効果の切り替えスイッチになっていると《勘》が教えてくれた。


カチッという音とともに、リボルバーが回転する。

銃の黄色く発光していた箇所は、水色に変色した。撃鉄は元の位置に戻っている。

もう一度起こすと、今度は緑色に変わった。



「青が【睡眠】で、緑が【宿り木】か?【宿り木】って、どんなもんかなっ!」



今度はチャージせずに一気に最後まで引く。


パシュッ


発射音はほぼゼロ。弾の太さと色も違ったが、速さだけは同じらしく緑の光線が飛ぶ。


着弾した箇所から不自然な勢いで植物が生え、ミミズの身体にまとわりつくように成長し始める。

麻痺で動けないミミズはなすすべもないまま、蠢く木に寄生されていった。


やがて、木は地面に根を下ろし、ミミズを地面に拘束するようになったところで伸びなくなった。


その光景は、一本の大木に頭を突っ込んで抜けなくなったミミズが藻掻き疲れて寝てしまったような少々間抜けなものだった。



「これじゃ【睡眠】を試しても効果が分かりにくいな…。仕方ない、次の戦闘で試すとするか…。」


そう残念そうに締めくくり、異世界最初の戦闘は予定通りの勝利で幕を閉じた。


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