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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
14/24

第5話 part1「彗駆の種 前編」

たしかに、昨日はすぐに寝てしまった上にこっちに来てから6時間くらい経った。ここは異世界であって、ゲームの世界じゃないし、生きているからこその生理現象だ。


…それに、超弩級のミミズを想像して少しビビったのもある。


なにせ全長56mだ。四両編成の電車とほぼ同じサイズで、蛇とかよりもキショいとなると嫌悪感は相当なものだ。そんな敵が4匹同時に出てくる世界に怖じ気づいても仕方ないと思う。


別に女性二人の目の前でするわけでもないし、トイレに行くのを禁止される理由も趣味もない。


あと、我慢は体に良くないからな。



シリアスな空気をぶち壊してしまったことに対して色々と自分に言い訳をした。




…さて、トイレに行きたいと告げた結果、シュロンから変わった答えが返ってきた。




「フーガでも使えるとなると、村まで戻らないと無いわねー」


「……?俺でも使える…って?」


そういえば、こっちのトイレ事情はまだ聞いていなかったな。魔法が関わっているのはほぼ間違いないが。



「えっとね、まず私達の世界では“虚界の鍵”っていう術式を、義務教育の一番最初で仕込まれるの。魔法と違って、慣れれば体の一部のように扱えるようになるのよ〜」


少し間延びしたシュロンの説明はゆったりと頭に入ってくる。



「“虚界の鍵”?」


そして、流れ出るように謎の単語が口に抜けた。



「ほら、お昼ご飯のとき、料理が黒い霧から現れたでしょ?あれは虚界に1度保存しておいたのを取り出したの。

生き物以外だったら、無限に!時間を止めたまま!混ざることなく!いつでもどこからでも!収納と取出しができるのよ!」


カノンがなにやら自慢げに、ジェスチャー付きで解説してくれた。幼稚園の先生みたいな印象を受け、普段の仕事ぶりが目に浮かぶ。



「そう。つまりそれが…」


「なるほど、トイレにもなるのか。で、その魔法がうまく使えない時の為に常設されているのが村にあるわけだ」


「ええ、その通りよ!フーガは話が早くて助かるわ〜。“芽吹き”とは大違いね!」


「うるさいなー、分かってるわよそんなの!ていうかね、フーガの頭のキレは普通じゃないのよ?もしかしたら、お姉ちゃんより上かもね!」


「あらあら、それは大変ね。我が家で何かあったときは、ますます“芽吹き”がバカにされちゃうわ〜」


「べっ、べつにいいわよ?逆にそれは、お姉ちゃん達が変だっていう証拠になるもの!!残念ながら、私は普通なんですぅー!変人にバカにされても、悔しくもなんともないわ!」


なにやら姉妹ゲンカが始まったが、情報の整理で忙しいから放っておく。


あの黒い霧の正体、それは【アイテム】を取り出すエフェクトだ。


“虚界の鍵”とやらは、RPGゲームで[メニュー]を開いて[アイテム]を開くような感じで使われる魔法なのだろう。あれが現実で再現されているなら、相当便利に違いない。


ゲームでは携帯トイレなんてアイテムはあまり見たことないが、リアル志向なら必須だ。


まぁ、どちらかというと、アイテム欄にそのまま用を足す感じみたいだが…。混ざらないってとこも強調してたし。


あとで処理場とかに繋げるのかもしれないな。

いくら混ざらないし無限に入ると言っても、ずっとそのままでは精神衛生上よろしくない。間違えて出したら大変な事になる。


あと、どのくらいの人がこれを使えるのか。


義務教育と言ったからには、ほぼ大半の人は使えるのだろう。やはり、文明のレベルはかなり高い。




思案していてほとんど聞いていなかったが、カノンの普通宣言だけはバッチリ聞こえたので



「いや、どう考えてもお前は普通じゃない。」


「なっ!?」



キッチリ否定して、村に戻る方法を考える。


カノンはちょっと嬉しそうな顔で固まった…。

何回目だよこのやり取りは…。




しかし、こうしている間にもどんどん膀胱はキツくなってきている。


ここからでもまだ村は見えているが、歩いて40分かかっている。支援魔法の力で走っても、決壊が先になるかもしれない…。



そういえば、転移魔法は?


とも思ったが、トイレ行くだけでなんか大袈裟だし、流石に情けない。それに、ちょっとカノンの魔法に頼り過ぎている気がする。

俺はヒモ野郎にはなりたくない。



魔法の力を借りずに解決する方法のヒントは、

最初から目の前に広がっていた。



「じゃあ、ちょっと失礼します」


「え!?ちょっとどこ行くのよ!」


ミミズが暴れたことで、人よりも高く盛り上がった土と大きくて深い穴が無数にある畑へと、足を踏み入れる。


「あら、分からないの〜?まだまだね〜。フーガ、別に穴にしなくても構わないのよ?」


「流石はお姉さん。話が早くて助かります。だけどそれは流石に遠慮しますよ。それじゃ!」



カノンが喧嘩をふっかけてくるのを無視し、盛土の影に大穴があるポイントを探すべく駆け出した。

男の特権、立ちションをするために。



『火事場の馬鹿力』だろうか。

切羽詰まってるのに脚がとてつもなく軽い。

足元は非常に悪いなかでもしっかり加速できる。

早急に立ちションポイントを見つけるために、持てる限りの力を出して疾走する。


大地を駆ける爽快感は突如、違和感に変化した。


自分の体が覚えている最高速度を超えた気がした。

足の回転はまだ速くなる。まだまだスピードは上げられる。だが、風の音がいつもより五月蝿かった。

それとも周囲が独特な光景だから、距離感が狂っているのだろうか。



疑問を抱き、考え始めたその時。

左側に目的に合致するポイントを発見し、急ブレーキをかける。


だが、その表現の通りに慣性に従って地面を6mほど滑走した。


体を逆方向に捻りながら片膝片手を付いて滑ったため、おのずと振り返る。


そして息を飲んだ。

焦げ茶色と空色の果てしない二つの層。

その中間にふたつ緑の粒がある光景 。

雄大な景色に絶句したのではない。

有り得ない景色に絶句したのだ。



そこはスタート地点から500mは離れていた。


そう判断できたのは、駅から直進500mのところにある行きつけのコインランドリーと同じ位に見えたからだ。



だが、自分では150mほど走った感覚だった。


実際はその3倍以上の距離を移動していたのだ。



つまり今…俺は、


この荒れに荒れた地面を、

おしっこを我慢しながら、

通常の3倍以上の速さで


疾走していた。



─────────────────────



ミミズの掘った穴はかなり深くて底が見えない。

予想通り、これなら畑の作物に影響することはないだろう。



俺は用を足しながら計算する。


自分でも信じられないその速度。その数字を明らかにすべく方程式を組み上げる。


膀胱の苦しみから開放され、血の気が引くことで頭が強制的かつ物理的に冷静になっていく。



…高校でのベストタイムは100m13.0秒。

最近は運動ではなく、労働をしていた。

よって、14秒程と仮定する。

150mは20秒弱かかるだろう。

よって、体感時間で20秒間走っていた。

20秒で500m。

三倍すれば1分で1500m。


つまり、分速1.5kmだから……





…時速90km!?





もう一度計算したが、やはりこれが式の答えだ。


脚力および肺活量が強化されていることは感覚でわかった。


しかし、いつ?どこで?誰が?どうやって?何故?

何一つとして分からない。


魔法によるのか、それとも力を貰っていたのか…。



まぁ、分からないことは二人に相談するのが一番いいだろう。余計な思考に時間を使わず早く戻ろう…



「ッ!?」



足を伝って地面が僅かに震動したのが分かると同時に、ゾクッと寒気、いや悪寒がした。

こんな明確な《勘》は初めてだ。


反射的に穴の前から距離を取った。

目にも止まらぬ速さとは今の俺の動きだろう。

一瞬で5m弱の間合いを確保していた。



流石に速すぎた。


地下からの振動はまだ近づく最中だ。

だが、警戒しながら更に後退する。



継続していた振動は、真下を地下鉄が通ったときのような揺れになり、そして…!





よりにもよって、ソイツは俺が用を足した穴から飛び出した。





「うおおおおおい!!!?まだ駆除出来てねーじゃねーか!!!」


ミミズとの距離は10mはある。


だが、頭(どこまでが頭だよ)を下げれば一瞬で詰められる距離。

このサイズのミミズにとって俺は食べきりサイズ。

間違いなく襲われる。



そんな事を考えた時、既に俺は逃走していた。


後ろから地響きが聞こえ、土煙だけか追いついてきた。


俺は無意識に来た方向からは少し逸れた方向に逃げていた。それを活かそうと、応援に駆けつけた2人に横から仕留めて貰う算段を思いつく。


正面で向かい打つより確実だ。

俺は偶然に感謝しつつ地面を蹴り進む。



最短距離を進むため穴を迂回せずに飛び越えようと力の限り跳ぶ。柔らかい土を踏みしめたにも関わらず、身長の倍近く身体が浮き上がった。


もう驚くことには慣れていたが、空中でうまくバランスを取れるかは別の話だ。


手足を動かし、なんとか盛り土の手前に着地した。

転ぶ前に足が出せたため、スピードはほとんど維持されたままだった。


その盛土から再び跳んだ。

今度は先程よりも高い。着地が少しぐらついた。


だが、それを楽しむ自分がいた。

人間の限界を超えたこの身体能力を、思う存分堪能して疾走したい欲求を満たしたかった。


『三度目の正直』

次の跳躍では、もう空中で後ろを振り向けるほど余裕が出来ていた。



巨大なミミズはその気持ち悪い体躯をくねらせて、はっきりこちらを追いかけているのが見えた。



音か?臭いか?それとも別の何か?


当然、コイツに目はない。地中から来たのを考えれば、音を頼りに餌の位置を探り当てたのだろうか。それなら漫画でもよくあるパターンだ。



だったら、音を断片化するまでだな!



直線移動をやめ、盛土から盛り土へ十数m跳ぶのを繰り返す。ジグザグと飛距離を調整しながら跳ぶことで、機動力をどんどん自分の物にしていった。



だが、ミミズは一直線に俺へと迫る。


理由が分からず悩んでいたところで、カノンたちがこちらに向かってくるのが見えた。


思いついた算段に従って、二人の横を掠める真っ直ぐなコースを見据えて駆け出した。




俺は走りながら、この状況を考えた。



この原因不明の超人的脚力がなければ、さっきミミズに食われて死んでいたかもしれない。


やはり、何者かの意図があるように感じる。

ご都合主義や主人公補正いう類の加護だ。

流石に都合が良すぎるので、考え過ぎである可能性は捨てた。


これもまた神様が仕組んだチュートリアル。

考えや行動を誘導して、あたかも自然な流れで理解できるように配慮してくれているのだろう。


あの神器も本当はもっと凝った演出をしたかったが、誰も見つけてくれなかったから仕方なくこっちに回してくれたのかもしれない。



漫画の読みすぎで展開の先や裏側を考察してしまうあたり、やはり俺は主人公には向いていない。純粋にストーリーを楽しみたい反面、それを崩して困らせてやりたいとも思うのだから。



まぁ、この次は神器の試し撃ちでほぼ間違いないだろう。俺の意志と現状の課題は完全に一致している。


動き回るが、大きすぎるターゲット。

それに対して、弾が無限で変形機能もある武器。

色々と試して使い方の確認をしてくれと言っているようなものだ!!




《原因不明の超スピード》と《神器“神の枝”》


「これが俺の異世界での能力か。なんだよ、それっぽくなってきたじゃないか!」


最初の負の感情は何処へやら、今はワクワクが止まらない。

心臓の鼓動が全身に脈打ち心を震わせる。

鳥肌と武者震いが同時に起こる。

昨日までの無気力な自分は、もういなかった。



「…でも神様、ちょっと凝りすぎですよ。

サクッと説明してくれて良かったのに…俺の心が折れてたらどうするんですか…。」



そんな愚痴をこぼす。

当然の様に、神様からの返事は来ない。


カノンが魔法を使おうとするのが見えたが、何故か途中で消したようだ。

でも、実際はそれでよかった。


よくよく考えれば、二人が倒してしまったら試し撃ちができなかったのだから。



こうして、何やら喧嘩をしているカノン達と合流を果たした。

遅くなりすいません。頑張って今日中にもう1話上げたいです

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