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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第4話 part3

クロメリア姉妹と共に教会から出ると、昼下がりの日差しが少し眩しいこの村唯一の大通りが暖かく迎えてくれた。

心地よい風が吹き抜け、まぎれもない穏やかな春の陽気に包まれている。


季節があるかは不明だが、この気候は昨日までいた日本と同じだ。なので、向こうで着ていたままの、薄手の長袖と長ズボンという服装は快適だった。



おなかはいっぱいだが、伸びをして新鮮すぎる空気も味わう。

排気ガスも工場の煙も含まないだけで、空気はこんなにも美味しいのか。



──ちなみに、食べ終わった皿や食器は料理が出た時と同じように、黒いもやが覆うことで元の綺麗な状態になり、ひとりでに台所へと戻っていった。

今度は隠すことなく驚いたところ、二人に大袈裟だと笑われた。


原理は全く分からないが、ここまで便利な魔法が登場したファンタジー系の作品は記憶に無い。あの〇リポタでも、食器はひとりでに動くスポンジで綺麗にしていたはずだ。


時間が経つにつれて、この世界の異質さが際立ってくる。

無知であることの不安と未知の世界への好奇心が、俺に情報収集を急かす。



留守にしてもいいのかと尋ねたら、教会に用事があって来る人は滅多にいないとのこと。溜まり場や集会所としての機能が主らしい。



「まぁ、誰が何をしているのか知ってるから、皆がどこにいるか、だいたい分かっちゃうしね〜。」


そういえば、100人ちょっとの村だったな。

もし、この2人に用事があっても居場所は見当がつくから探しに行けばいい、といったところか。人の少ない村だからこその考え方だな。


…あれ?携帯電話みたいに連絡を取れる便利な魔法はないのか?


連絡手段について尋ねてみたところ、


「連絡?うーん、手紙とかかな。そもそも、そんなに急いで連絡するようなことがないからなー。皆、会ったときに言えばいいやって感じだし」



進歩してるのか遅れているのかよく分からなくなってしまった。



当然のように、教会も開けっ放しで通りを右に向かって歩き出す。というか、そもそも鍵そのものが見当たらなかった。治安の良さは世界でもトップレベルの日本においても、山奥の田舎でなきゃこうは行かない。

…ということは、この世界は日本並に平和なのか?


それとも、やはり「今はまだ平和」なのか…?


…この質問は後にしよう。心の準備がまだできていない。



あれほどの魔法が使えるのに、歩みを進めて目に入る家屋は全て石や木で造られていて、古い西洋の農村そのものだ。


気になったので歩きながらそれも問う。


詳しい説明は難しい単語のオンパレードだったのでわからないが、早い話が世界遺産みたいなものらしい。日本の白川郷のように伝統的な建築様式を保存しているそうだ。



尽きることのない質問を繰り返しながらのんびりと歩いていると、建物が並ぶ石畳の道は途切れ、広大な田園風景の広がる踏み固まった土の道に出た。


地平線まで続く見渡す限りの黒っぽい土の畑に、木々や土手が点在している。とても開けた場所なので、遥か遠くの方に雲を突き抜けそびえる山脈を見つけることができた。どれほど離れていれば、その雄大な山がこんなにも小さく見えるのだろうか。



畑から戻って来る人達と何度か出くわし、挨拶と軽い会話を交わした。


そして、ことごとく全員が勘違いする。


俺はその度やんわりと否定してるのに、シュロンがハッキリ肯定する。カノンはその度ニヤケて照れていた。



─正直な話、いきなり美少女に求婚されるなんてゲームや漫画でも滅多にないので正しい対処方法がわからない。


本音ではもちろん嫌じゃないのだが、なんというか、過程がおかしいと思う。


変な例えだが、フルマラソンを完走してみたいかと聞かれて、どちらかといえばyesと答えたら、「じゃあゴール前までワープさせてやるよ」と言われたような感じだ。


いくら美少女でも、ちょっと気が引ける。



そんな下世話な話をした後でも、誰もが太陽のような笑顔で別れの挨拶してくれた。話せば話すほど、この村の人は本当にいい人たちばかりだと実感してくる。


だからこそ、今後俺が原因で事件に巻き込んでしまわないか心配だ。

俺がこの超平和な村へと送られた理由が未だに見えてこない。これがなんとも不気味なのだ。

「嵐の前の静けさ」と言うやつだ。



とにかく用心するに越したことは無い。

そもそも、今日の午前中にだっ…て……



「あーっ!!あの爆発音は!?ていうか、なんで今の今まで忘れてたんだ!!」


またうっかりしていた。おじさんたちが無事だった上に、神器やら結婚やらの話で頭の奥に押しやってすっかり忘れていた。


事件はすでに起こっていたのに!!


呑気に歩いていた一行は足を止める。



「そうだったわ!お姉ちゃん、何があったか知らない!?」



俺とカノンが焦って問う。


すると、さっきまでのゆるふわトーンとは打って変わって、真剣な声で待望の答えが帰ってきた。



「…二人とも、これは他のみんなには内緒よ。ちょうど今向かっている場所こそ、さっき戦闘があった場所なの。おそらくだけど、フーガ君に関係があるわ。詳しくことは着いたら説明するわね」



─────────


近づくにつれて見えていたが、目の前にするとあまりの光景に絶句した。


見たことも無いくらいデコボコに荒れた地肌は、そこが畑だったとは到底思えない。大きく波打った大地が1キロ以上に渡って広がっていた。

これを平坦に戻すにはブルドーザーのような重機を使っても2週間はかかるだろう。作物が植えられていなかったのは不幸中の幸いだろう。

爆発の痕跡と思しき焦げた土がいくつも見られ、クレーターのようになっていた。



「っ!?これは…一体なにが!?」


「超弩級の蚯蚓みみずによる仕業よ。人為的に超巨大化させられた蚯蚓が、ここで暴れ回ったわ」


「畑がこんなになるなんて…!!そんなに大きかったの!?」


「胴回りは約2.8m、全長はおよそ56mってところね。…そんな奴が4匹も、前触れもなしに現れたの。尋常じゃないでしょ?」


興奮するカノンとは対極に、お姉さんは畑を見据えて静かに淡々と惨劇の様子を語る。その面構えは歴戦の猛者のように落ち着いたものだった。



しかし、ミミズのデカさやお姉さんの過去よりも気になることがある。



「それで、俺に関係があるってどうゆうことなんですか?」


「フーガ君と教会で会ったあとすぐに、この事件は起こったわ。偶然にしてはおかしいと思わない?」



その言葉に、俺は頷きながら唸るしかない。


「うーん、たしかに。それで、その後は?大ミミズが暴れていると知って、ラニッシュおじさん達となんとか撃退したって感じですか?」


「その通りよ」とシュロンが簡潔に告げる。



「…人為的に、って言ってましたけど、普通のミミズはこのくらいで、何者かが巨大化させたってことですか?」


俺はよく知るサイズをジェスチャーで伝え、この世界のミミズの大きさを確認する。


「ええ、この世界でも普通はそのくらいよ。ただ、“巨大化”させても、せいぜい20倍くらいにしかならないわ。」


「そう。それに、お姉ちゃんが巨大化させた蚯蚓が、元々この畑には放たれていたの。だから、誰かに!何らかの方法で!何か目的があって!更に巨大化させられたのよ!!…あ、同じ魔法の重ねがけは出来ないのよ。これも常識だから、覚えといてね?」



やはり、異世界から来たことを伝えて正解だった。二人とも協力的で、事情を理解した上で丁寧に説明してくれるのでとても助かる。



カノンの説明では犯人像が全く予想できないが、このお礼はその犯人を捕まえることで果たそう。




そう決意して、推理を始める。

メガネがあればもっとそれっぽかったのにな~。



何者かが畑を荒らすために大ミミズを怪物に変えたのは間違いない。


問題は、動機と手段だ。


俺に関係するとしたら、なんで畑を荒らしたのかが分からない。

ミミズを更に大きくする方法もだ。



それにしても、「大きくしたミミズで畑を耕し、土を肥えさせる」か。

虫やミミズは生理的にキツイな…。


珍しい手法だと思うのだが、どこかで見たことがあるような……?




あぁ、分かった。

モン〇ンの農場だ。

釣りミミズで畑のウネのレベルをあげられるんだった。


こっちではミミズにしか魔法を使わないから、魔法効率がいいとかの理由があるのだろう。


そうでもなきゃ、20倍の大ミミズなんて普通は気持ち悪くてお世話になりたくない筈……


そういえばいたな、普通じゃない娘が。




なんにせよ、謎を解くにも情報収集だ。


まず最初に、この村の諸々を教わることにした。



━━━━━━━━━━━━━━━━



驚くべき事に、この村そのものが世界でも有数の農業地帯だった。最長距離は端から端まで500km以上あるらしい。だが、人が住んでいるのはさっきの所だけだそうだ。


…村ってなんだっけ。


遠く離れた畑や牧場への移動手段は固定式転移門ポータルと飛行系の魔法を用いるので移動時間は考慮されないそうだ。


それはそんなに気軽に使える魔法なのか…。


人の背丈よりも大きな小麦や季節毎の野菜を中心に、魔法の効果を秘めた作物まで数百種類の作物が生産されている。

また、土作りから収穫までの間に、工夫を凝らした多くの専用魔法を用いる。分担して少人数で出来るため、最近までずっと畑の規模が大きくなり村が広がり続けていたそうだ。


流石に耕し過ぎだろ…。




今はシュロンがとカノンが村での生活について教えてくれている。


「…で、昨日ようやく広ーい空き畑全部に巨大化させた蚯蚓を撒き終えたの。それで今朝からは“肥沃”の魔法が込められた魔法薬を撒く作業に入ったわけ。事件はその矢先のことだったのよ!」


心の中で時々ツッコミながらも順調に情報収集をしていたのに…


「ゴメン、トイレ行きたい。」


俺は空気の読めない尿意に襲われた。

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