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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
12/24

第4話 part2

集まっていた村人たちは挨拶も程々に、昼食をとるために教会をあとにする。

彼らの中には、カノンが連れてきた子どもたちの保護者もいたようで、手を繋いで仲良く家に帰っていった。


なんでも、カノンの仕事は彼らの子守りだそうだ。

基本的に午前中だけ面倒をみて、日本でいう幼稚園みたいなことをしているらしい。誰一人としてカノン先生とは呼んでなかったが…。


俺に質問しようと待ち構えていた人達も、


「お昼ご飯なら仕方ないな、じゃあまた後で!」


と言って、アッサリと解散していった。


約束通りお昼ご飯を貰うべくカノンが現れた木の扉を開けると、もうすぐそこが食堂だった。

丸石造りの壁にランプがかかる西洋の古い家屋のような部屋は、造られた当時から時間が止まっているようだ。

大きめの窓からは一列に並ぶ住宅の裏側と、草原や畑の地平線、森のある小さな丘が見えた。

ランプを灯さずとも窓から入り込んだ日光によって、石造りの部屋なのにまったく暗くない。

食堂に入ってすぐ左側に、昔ながらという感じの炊事場がある。

また、食堂の右奥側にまた別の扉があった。その先には、おそらく寝室などがあるのだろう。



木目の美しいウッドテーブルはかなり大きなもので、誰が使うのか10人分もの椅子がゆとりをもって周りに備わっている。


俺はいわゆるお誕生日席に座らされた。

向かって左側に姉妹が並んで座…ろうとして、お姉さんがいらない気を回して奥側に座った。



まだ机の上には何も無い。

いったい誰が持ってくるのかと不思議に思ったその時。



俺の後方…すなわち炊事場の方から皿や食器がカチャカチャと小さく音を立てて浮き上がり、スゥーっと飛んできて整然と着卓する。


陶器製かと思ったがよく見ると木目がある。その皿は美しい白い木材で出来ていたのだ。食器も普通の茶色い木材だったが、ナイフまで木製だった。


「うおぉっ!?」


予想していたよりも遥かに魔法が日常生活に根付いていたことで、思わず驚きの声を上げてしまった。まさか、ハリ〇タの世界レベルだとは思わなかった。



その声を聞いた二人が、どうかした?という顔でこちらを見る。


彼女達にとってこれは特別でも何でもないことだと察し、心を接客モードに切り替える。


何があっても動じることなく最善の対応を考え、顔は営業スマイルに固定されるこのモードは、これから起こる夢の様な現象でも興奮を抑えて笑っていることが出来た。



「それじゃ、本日のお昼ご飯の登場でーす!」


まるでどこかの司会者みたいなカノンの宣言を受け、大小合わせて7枚の皿の上に影を雲状に固めたようなものが渦巻く。カノンは行儀よく座ったままだ。先程の魔法のように手を動かしている様子はない。必ずしも手を使うわけではないらしい。


雲とも煙とも言えない黒いもやが晴れると、美味しそうな匂いを携えた料理が出現していた。


中央の大皿にはロールパンに似たパンが盛られ、各々の二枚の皿には主菜とデザートが盛り付けられている。レタスのような生の緑色野菜を下に敷き、大きな肉が香ばしい色に焼かれて鎮座している。まるで、直前まで焼いていたかのように表面で脂が跳ねている。


小さい方の皿には蛍光ピンクに黒いつぶつぶが入ったペーストとクリームの中間のような状態のデザートが入っている。ドラゴンフルーツのスムージーみたいな色合いをしているが、それにしては混ざっている粒が少しばかり大きい。


初の異世界料理は内心不安だったが、これなら躊躇なくかぶりつける。それほどまでにこの食事は現代の洋食ランチメニューに酷似していた。ナイフやフォーク、スプーンといった食器が置いてあるサイドまで一緒というのが興味深い。



「そうそう、フーガのは少し大きい肉にしてあげたんだけど、菜食主義だったりする?」


「いや、大丈夫だよ、ありがとう。…ところで、これは?」


なにやら残念そうにしているカノンに、俺はデザートを指さして尋ねた。


「あ、それはこの村名産のスイカを使った“熱い氷菓”よ!甘くて美味しいだけじゃなくて、体にもいいんだよ!」



遂に、異世界特有の食べ物の名称を無理に日本語訳に置き換えた言葉が登場した。



口ではへー、と言いつつも俺の心の中では…




(なんだよ“熱い氷菓”って!液体になったガリ〇リ君か!?)




と、穏やかじゃないツッコミを炸裂させた。

これらの過剰な翻訳に加えて、勘違いの多さと進行の遅さにじわじわと腹が立ってきている。



魔法に限った事ではないが、不具合を報告するなら早いほうがいい。

ここらで話を切り出すとしよう。



正体不明のデザートに含まれる種の凄さを語ろうとするカノン。


「ごめん、ちょっといいか?お姉さんに報告しなきゃならないことがあるんだ…。」


それを遮って、バツが悪そうにそう告げると…


「はい。なんでしょう?…といっても、なんとなく見当はついていますよ。」



真剣さの中に困ったような笑顔を浮かべるという複雑な表情で対応され、俺だけでなく空気そのものに緊張が走る。




やはり事故ドジだったか…




そう思いたかったが、違和感と嫌な予感が頭をよぎる。



「妹のこと、よろしくお願いしますね」


満面の笑みでお姉さんはそう言った。



「いや、あの…だからっ違うっての!!!」



勢いよく立ち上がり、そう叫んだ。


仏の顔も3度まで。仏じゃない俺は三回目にして耐えきれなくなった。俺の言い方が悪いのか、さっきから勘違いしかされてない。



さっきまでは結婚してから考えればいいや、なんて他人事のように思っていた。


だが、もしバレたら必ず彼女達や村の人たちを傷つける。彼らは本当にいい人たちばかりだ。

そんな人達に嘘を突き通せる自信も、突き通す度胸も俺にはない。


傷つけてしまうなら、浅いほうがいい。


誤解は早い段階で解くことにした。





だが、勘違いはもうひとつあった。





「えぇ!?でも、もうシちゃったんでしょ?セ…」


「してないです!!誰ですか!?そんなこと言ったのは!!」


何を?と聞くまでもなく食い止める。

俺のツッコミの反応速度は、先輩の数々の下ネタボケを殺してきた。

てか、今から食事だろ何を言い出すんだこの人は!



「お姉ちゃん!?それは流石にまだよ!!てか、誰よそんなテキトーなこと言ったの!!ちょっとシメてくるわ」


こっちはこっちで血の気が多い。しかも、まだとか言ってる辺り、食い気味で流石に引く。

だが、シメてやりたいのは同感なので、後でついて行って俺は支援魔法を頼もうと思う。


「えっと…“大地”さんとこの“耕す”君よ、手を出しただの、責任を取れだの聴こえたって…。」


「「それ、手を貸し(り)ただけ!!!」」


この世界に来て最初のシンクロツッコミが食堂に響き渡った。



──────────────────



「なにこれ、めっちゃうまい!!え、カノンの料理上手すぎない!?プロ、いやそれ以上だろ!!…あ、これ実は作ったのは私じゃないよっていうオチだったりするのか?本当にカノンが作った?」


うまいとしか言えない語彙力の無さは、主食がコンビニ弁当とドリンクバーだったことの弊害だ。

だが、これを美味いと言わずなんというのか。

調理の腕も然ることながら、素材そのものが違う気がする。


「褒められて良かったね〜。かなり張り切って作ったんでしょ?料理に愛がこもってるわ、愛が。神様は相性のいい二人を結んでくれるものね。でも、やっぱりカノンに釣り合う人はこの世界にはいなかったか〜。」


騒がしい食事は久しぶりで、ついつい口が動く。

というか、お姉さんのゆるふわな喋り方が可愛らしい。


「うるさい!二人とも黙って食え!!」



照れたカノンに怒られ、わざとらしくパンを一口にくわえることで口をふさいで見せた。




「…それで?結局のところ、フーガはこの後どうするの?それに魔法が1つも使えないなんて、今までどうやって生活してたの?」



─━実は、もう既に、食事をしながら、ある程度の事情を話した後だ。


…というのも、食事の前にお祈りするのがこの世界の常識だとは思わなかったため、普通にいただきますと言ったら怪しまれて出身地を問い詰められた。



あれだけ最初から警戒していたのに、結局は怪しまれることになったのだ。


俺も詰めが甘い。このデザートみたいに…



いや、待った。このデザート、くっそ甘い。

流石にここまでは甘くない…と思いたい。



だが、誤魔化すこともできただろう。最強の言い訳の一つ、記憶喪失だとでも言えばいい。


…理由はない。俺にとって重要なのは理由じゃない。


なんとなく、話しても大丈夫だと思えた。


だから、二人には打ち明けた。


俺の知る限りで、異世界に来た主人公達が滅多にしない行動を取った。




①この世界とは大きく様子が違う世界から訳も分からずこの教会に送られてきたこと。


②この世界のことは何も知らないこと。


③お姉さんが発動した魔法は固有名詞さえも見境なく翻訳していること。


④勝手に神器を見つけてしまったこと。


⑤魔法が使えないこと


今のところ、この五つを話の中で順番に伝えた。


翻訳魔法に関しては実験も兼ねてのことだったらしいので、逆にしばらく様子を見て欲しいと言われてしまった。

効果時間も不明だが、カノン曰くかなり個人差があるらしい。


神器も別に使っていいよ、とアッサリ許可がもらえた。

この世界の神器は扱いがかなり雑だと思う。



逆に、伝えていないこともある。


「世界を救え」と言われたことは、いったい何からどうやって救うのか自分でもよく分かってないので一切口外していない。

訳も分からず目が覚めたらこの世界にいた、と二人には説明した。


ほぼ嘘ではないし、それに、自称「世界の救世主」はかなり痛い目で見られるだろう。漫画で読んだだけが、イエス様もそういう目にあったらしい。


あと、俺の世界では魔法が空想上の存在だったことも伝えていないが、それは今から言う。



「そもそも魔法がなかったんだよ。だけど、それなりに色々と便利に生活できてたよ。こっちの魔法の方が便利かもしれないけどな。」



「「へぇー」」


「この後は…まずは情報収集と、出来れば神器のテストかな。あと、持ち合わせがないし、どこかで働けたりすると嬉しいんだけど…」


無一文で無知とは、末恐ろしい状況だ。

ここでお世話になれるとも限らないし、生活するために働き口は必要だ。



それを聞いた“豊穣”お姉さん、もとい“シュロン”さんが何か閃いたように提案する。



「じゃあ、午後は私達と村を見て回るのはどうかしら〜?農場の方でちょっと手伝って欲しいこともあるし」


こうして次の俺の予定が決まった。



…あ、“熱い氷菓”ってパンに付けると超美味い。

これ、もうジャムでいいじゃないか。

ていうか、ジャムを直で食わせるなよ。

月曜日は忙しかったので、遅くなりました。

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