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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第4話 part1「広いよケルシェ村」

❝神林の恵み❞《ケルシェオクニ》村


水都“水神の加護”《サラルオカニス》と地都“土神の結界”《ミオ・グラス》の中間に位置し、広大すぎる自然に恵まれた農村。

人口たった126人に対して、面積およそ32000平方キロメートル(関東地方と同じくらいの広さ)。その人口密度の低さから、こちらの世界でいうバチカン市国みたいな知名度をもつ。

面積の6割が農地、3割が森林、残りはほぼ牧草地。どこまでも続く肥沃な大地の中央に、今も伝統的な路村状の石造りの居住区があり、人々はそこで生活をしている。

現代魔法を用いた大規模農業による主要作物の生産や、この地域でしか栽培できない特殊な効果を持つ商品作物の生産、完全自由放牧による酪農が主な産業だ。また、❝神林ケルシェ❞と呼ばれる数千年間人の手が入っていない巨大な森で、希少な植物の採取や野生動物の狩猟を行う事もある──



そんな小さくて大きすぎる村唯一の教会で、午前中の仕事を終えて昼食を食べに戻ってきた村人達が、珍しい黒髪の青年を取り巻き輪になっている。


その青年はよく分からないという表情で酪農を営む男に問いかけた。


「えっ…これって神器とかじゃないんですか?」


「いや?神器だよ。僕が保証する。」


「神器って、もっとこう…ヤベーっ!スゲー!ってなったり、……ここだと珍しくないんですか?」


場違いな空気を察して質問を変更した。


「いや、僕も初めて見るし、かなり珍しいよ?まぁ聖遺物相当だけどね。この村にもやっぱり神器はあったんだねー」



他の村人たちもうんうんと頷き、似たような反応を示す。大して驚いた様子は無く、家の中で無くした大事な物がもう要らなくなった頃にひょっこり見つかったような感じの反応だ。



「でも、即売ろうってなるのはどうなんですか…。いや、それより、この神器の所有権が気になるんですけど…。」


と、俺が個人的に気になることも聞いてみる。

あまり気にしない方がいい問題ではあるが、興味と好奇心から聞かずにはいられなかった。


カノンが所有権という言葉を使っていたことから、異世界にしては珍しく、しっかりした法律が存在するようだ。


俺のよく知るファンタジー世界は社会が不安定なせいもあって法律はあやふや。伝説の武器や宝も見つけた人の物だったり、盗まれた物でも買い取らなければならなかったりする。


だが、この世界は法が整備される程度に社会が安定しているのはほぼ間違いない。


それを踏まえて、こんな雑学を知っている。

日本では他人の土地で埋蔵金を発見した場合、

その所有権は[発見者と土地を所有する人の半々になる]そうだ。


某行列の出来る法律相談バラエティー番組でそう言っていたのをさっき思い出した。

法律は論理に基づいて作られるから、異世界でも似通っている可能性は十分ある。


何が言いたいかというと、この世界で俺はこの武器を所有できるか怪しいということだ。


さっきカノンに口頭で許可を貰ったが、証人もいない口約束では効力がない。


…そして今、気がついた。

もし銃刀法まであったらどうしようもない。


だが、それはそれで安全な生活が出来るだろう。


…あれ?でも、それだと世界を救うって話はどうなるんだ?


なんだろう、何かがおかしいような…。




質問しておきながら悩む。

そんな俺に対して、お兄さんは少し考える素振りをしてから…


「所有権?んー、詳しくは調べてみなきゃ分からないけど…。まぁ、結局は君の物だな!」


屈託のない笑顔でそんなことを言ってきた。



「え!?そうなんですか?」



杞憂だったか。まぁ、そりゃそうか。

だって、世界を救うためにやってきた主人公が、苦労して手に入れた伝説の武器を、法律振りかざして取り上げてどうするんだって話だもんな。



なんにせよ希望の糸が目の前に現れた。

そう思って、咄嗟にそれを掴むと…



「だって、君は“芽吹き”ちゃんの旦那さんになるんだろ?教会の関係者かつ発見者だったら、持ってても誰も文句は言わないさ!」


更にいい笑顔で、避けていた話題へと引っ張り戻されてしまった。



心の中で後悔するが時すでに遅い。


こうなっては仕方ない。

客観的に見ても一番おかしな点から指摘しよう。



「…俺はカノンとさっき出会ったばかりなんですよ?」


このままでは電撃婚なんて目じゃない。

電撃より早いとなると…何撃婚だ…?光か?

何にせよ、ありえない速度でゴールインすることになる。こちらの結婚もそんなホイホイ出来ることじゃないはずだ。



実際、俺の判断は正しかった。


多くの村人が「えっ?そうなの?」と意外そうな顔をする。流石にここは同じだったかと安堵した。


そして、間髪入れずに、1人のおばさんが話しかけてきた。最初にメガネ探しを手伝ってくれたあの時のおばさん、“紅葉”おばさんだ。


「そうなのかい?私はてっきり“芽吹き”と仲良くなったから、この村に来たとばかり思ってたよ。

ほら、あんたが気絶した魔法。あれは“芽吹き”にもかかってるから、“芽吹き”とだけは言葉が通じてたんじゃないかと思ってさ。

同じように“豊穣”にかけてもらったんだけど、あの娘ったらドジでさ!何を間違えたか、補助魔法なのにあんたを倒しちまったんだ。」


あっはっはと笑うおばさんに釣られて皆も笑う。

こういうおばさんはどこにでもいるらしい。

話しているとこっちまで元気になる。


見ず知らずの俺を怪しむどころか、こんな話をしてくれたことで警戒心が少し緩まる。


「あのときは雷に打たれたかと思いましたよ…。でも、結果的に助かりました。それで“豊穣”さんは今どちらに?お礼をしたいんですが…」


この魔法の効力を実感してる身として当然の筋だろう。ついでに、効果時間と固有名詞も変換されるバグがどうにかならないか確認しておきたい。

もしかすると、そのドジの副作用かもしれないからな。



「あの娘なら、もう一つのドジの後始末をしてるところさ。カタは着いたし、まぁーそのうち帰ってくるさ」


この短時間で二つもドジっているとは…。

微かにカノンも言っていた気がするが、どうやら相当なドジっ娘お姉さんらしい。



呑気な事を考える余裕が生まれたのを見計らったように、口ヒゲを生やしたちょっと厳つい感じのおじさんが問い詰める。このおじさんの名前は知らない。


「にしても、おめぇさんどこから来たんだ?髪色もそうだが、言葉が通じないってのは今どき珍しいな。」


俺は待ってましたとばかりに


「女神様に連れてこられる夢を見て、起きたらここにいました」


そう、即答した。


“嘘は損、語り過ぎも損”

お兄さんやおばさんと会話して方針を決めた。

なんとなく、これで上手くいくようだ。


何処から来たかという質問には答えていないが、その問題を上書きできることが起きている。神様による拉致というインパクトで、上手く誤魔化せるだろう。


そんな予測通りに皆がザワザワし始めた。


「ん?それじゃ、おめぇさん。自分の意志でここに来た訳じゃないのか?俺はてっきり爺ちゃんみたく、婿入りするために神様に連れて来られたんだと…」



やはり、過去にも送られてきた人がいた。

そして婿入り…。誤解されてた理由になんとなく察しがついた。 だが、この人のお爺さんと俺では明らかに様子が違う。



「へぇ!昔はそんなことがあったんだ!?」



意外なことに、俺以外から驚きの声が上がった。

集まった人の中でも比較的若い人達だ。


「あぁ。100年ちょっと前まではよくあることだったらしいぞ。なんでも、神様が直接人を動かして相性のいい者同士を引き合せることで、今みたいな世の中を変えていったんだとよ。

結婚相手を探していたうちの爺ちゃんは、火都“炎神の帝国”の教会からはるばるここまで飛ばされて、同じく相手を探してた婆ちゃんと出会ったってわけだ。ガキの頃から自慢げに何度も聞かされたぜ」


次に口を開いたのは若い奥さんだった。


「そういえば、“神の見合わせ”とか“神の婚活”って呼ばれて近代史に載ってた気がするわ。神様達はこの頃から大胆なことしてたのね」



つまり、昔あった風習ということか。

にしても凄いことしてるな神様…達?


「でも、それとはちょっと違うんだな…。多分だけど夢ってのが鍵だと思うんだけどな〜。それか、夢の中で“無作為転送”しちゃったとか?」


「そんなの“豊穣”だけだろ。帰ってきて直ぐの頃に、寝ぼけて後輩のいる学生寮の布団に“転移”したらしいぞ」


残念ながら、魔法は使えないんですよ。

てか、お姉さんのドジ話がここでも出るか…。


「いや〜、そんなドジは流石にないですよ!というか、その…。」


魔法は使えない。

そう言おうとした時だった。



「はぁー…。ただ今戻りました〜。後処理完了で〜す。あぁ、お腹空いた…って、あら〜?みんな集まって何してるの〜?」


「フーガ!お昼できたからこっち来て!!あ、お姉ちゃんも丁度いいとこに!話さなきゃいけない事ができたから、早く早く!」


入口の扉と住居の扉が

対照的な二人によって同時に開けられた。



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