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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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第3話 Part3

ズボンの右ポケットに銃をしまい、聖堂へと戻ると、いつの間にか大人達が増えていた。



カノンが連れてきた子供達12人と老若男女26人。

一瞥しただけで人数が把握出来たのは、千里眼の効果だろう。先程までと打って変わって大所帯だ。



少し遅れてカノンが地下から顔を出した。15mもの急な階段は当然のように彼女にはきつかったので途中で追い抜いたのだ。

追い抜き様に鼻で笑われムキになる姿は、なんともからかい甲斐があった。



…そんなことをした後なので、多分跳ね除けられると思いつつも俺は「ほらっ」と手を差し出した。



だが、素直に「ありがと」と言われ、その手をしっかりと握られてしまう。


そして、目が合ってしまった。



「…っ!!?」


「な!?なに照れてるのよ!手ぇ出したんなら、最後まで責任持ちなさい!」



耳がとても熱い。無意識にカッコつけようとして、自爆してしまった。

さっきから俺は何をしているんだろうか。

これが異世界テンションってヤツか…。



俺達のやり取りに興味を持ったのか、入口近くで話しをしていた人も集まってきた。

そして、30を超える視線が俺達…いや、俺に注がれた。


だが、それは先程までの疑いや好奇、ましてや嫉妬のこもった冷たい目などではない。

むしろ、優しくて見守るような暖かい目だ。


…いや、この目はなんか勘違いしてる目だ。

この暖かい目は、ニヤニヤしてるって表現が一番しっくりくる。


さっきからこの世界の人は勘違いしかしてないような気がするな…。



やがて、皆が口々に思ったことを言いだした。

俺は視線をあちこちに泳がせつつ、聞き耳を立てることに集中する。悪いことだとは思わない、今こそ貴重な情報収集の機会なのだ。



「ふーむ、見たことない髪と目の色だな。」


「そう?私は街で見たことあるけど?でもまぁ珍しいわね、黒髪黒目なんてこの…」


「…は微妙だけど、体格はまぁまぁいいわね。何の仕事をしてるのかしら?」


「それは遠くからじゃないと、合う人がいなかったんだろ。それでもいるんだから、そういうのを神様が…」


「…してた残念美人の“芽吹き”も、大人になったもんだな」


「…全くだ。なんにせよ、めでたいこったぁ!」


「そうだな!ここは前祝いにパーッと飲むか!」


「あんたはいっつも飲んでるでしょうが…。せめて式まで取っておきなさいな」


ワイワイと話す村の人達は、聞き取れた限りでこんなことを言っている。

やっぱり残念美人だったか。


小さな集落だからだろう。村人みんなが大家族のようだ。安心感のある暖かな雰囲気に当てられ、懐かしさと寂しさに口をもごつかさせたところでふと気づく。



…式。



…何の式だ──祝い酒が飲める式だ。

…そうか。歓迎の式か──なぜ歓迎会じゃない。

…式とは冠婚葬祭を示す言葉だからだ


…めでたい式とは──結婚式だ

いったい誰が結婚式を挙げるんだ?

──カノンと…俺か?俺なのか!?




なんで!?色々すっ飛ばしすぎだろ異世界!!



自問自答して得た答えが、全く理解出来ない。


…そうだ!カノンの反応を見れば!?


バッと右を向くと手をばたつかせて喋りまくる様子が目に入った。


「いや!!まだ、そうと決まった訳じゃないわ!!勝手に話を進めて、あとで違いました〜…なんてオチはイヤだもの。そもそも、こんなの普通じゃないわ!!……あ、ならそこは別にいいか。と、とにかく!慌てて勝手なことをしちゃダメよ!」



あれ、否定してるのかコレ!?

きっちり否定しないと誤解されるぞ!

俺に!!


カノンは未だあやふやな事を口走り続ける。

俺も重ねて弁明しようとして…口に留める。



この誤解は厄介だ。


言葉を知らない男が急に現れたら、婿として受け入れる風習でもあるのかというくらい、この状況を誰も疑問に思っていない。



つまり、今ここで不用意に否定すると、常識知らずの男として怪しまれる…可能性がある。念のため、口を閉じた。



─ここまで徹底して怪しまれないようにしているのは、単純にそれを恐れているからだ。


最初は念のため用心しただけだったが、カノンと会話してからは《勘》も怪しまれないことを推奨してきた。



異世界から来た人間が俺1人だけである可能性。

それが頭から離れない。



もしそうなら、世界の情勢に関係なく俺の身に危険が迫るだろう。


魔王とかを倒そうとすれば刺客がくるだろうし、平和な世界だとしても、物珍しさに厄介ごとが転がり込む。


前者は言わずもがな。後者は例えるなら、日本の田舎にエルフが突然現れるようなものだ。

そんなことが知られたら、瞬く間に世間の話題になって、大混乱になるだろう。



…まぁ、俺にエルフに匹敵する価値は無い。

でも、河童が見つかる程度には騒がれるはずだ。

それでも、騒がれたくない。世間の見世物になるのはもうゴメンだ。



普通の異世界転生なら、こんな事はあまり気にしていなかっただろう。前任者がいたり、能力を授かっていたりして身を守る力が手に入るからだ。


だが、俺は身を守る力を一切授かっていない。

今もし攻撃されたら普通に死ぬ。


そうならないためにも、頭と《勘》をフルに働かせて危険を避けるか何かしら力を手に入れるしかない。


《勘》があるだけマシだが、これは特殊能力にしては弱すぎる。一年間色々と試した結果、様々な条件や欠点が見つかっているのだ。


その一つに

[関連する情報が少ないと発動しない]

という欠点がある。


例えば、会ったこともない人の名前や居場所、この世界の常識などは一切分からない。

ババ抜きでは絶対に勝つ自信があるが、異世界を生き抜ける自信はあまり無い。

今までの状況は思いつくままに嘘をついたり、話を合わせたりするにはリスクが大きすぎた。

さっきはテキトーに指を指したようで、実際は音や振動の情報があったから当てられたし、もし外れていてもノーダメージだった。

だが、この大人数の前で嘘をつけば気づかれやすくなる。それに、嘘はつかずとも話題をすり替えることでここまで回避出来たのだ。わざわざバレやすい嘘をつく必要はない─


ここまで

怪しまれないために慎重な行動を取ってきた。

だが、

時として大胆な行動をしなければ進まない。


それは今ではないだろうか。


怪しまれても誤魔化せるかもしれない。

それに今は“神の枝”がある。

身を守る力を手に入れたのだ。

まだ使い方が分からないので丸腰同然だ。

でも、命を狙われる時までに防衛できるようになっていればいい!!


俺は決断した。



会話しよう!!



なるべく怪しまれずに!

よく分からない婚約話をお断りして!

そして少しでも多く、必要な情報を集める!!



情報の優先度は


【“神の枝”の使用方法】>【この世界での俺の立ち位置や世界の状態】>【結婚含む一般常識】


こんな感じでいいだろう。

常識に関しては会話の中からその都度拾っていって、あとは発動した《勘》に任せる感じでいい。


決断したことで次の行動が明確になる。

だが、気がかりなことが一つあった。



情報収集の結果

もし本当に、こんな唐突な結婚話が

世界の常識だったらどうするか…。



カノンと結婚したいかどうかなんて分からない。

そもそも、恋愛からは程遠い日々を過ごしていたのに考えもしてないわ!そんな事!!



こういう時は、困った時のことわざだ。



『郷に入っては郷に従え』『覆水盆に返らず』



…よし、前者でいこう。

やらずに後悔より、やって後悔だ。



我ながら最低な腹の括り方をし、腹の底は隠し通す覚悟で問いかけようと、口を開いた瞬間…


「ぐぅーっ…」



盛大に腹の音がした



…俺の腹から。



お腹が鳴るのは、ヒロインや鈍感系主人公だけじゃなかったのだ。



腹の虫を聞いたおじさんは大声で笑い、おばさんがあらあらと微笑み、若い女性にクスクス笑われ、子供達は俺を指をさしてアハハと笑った。


…当然、恥ずかしくてたまらなかったが、何とも言えない心地よさがあった。



「それに!そうよ、お昼ご飯よ!お昼ご飯の準備しなきゃ!!」


今ので言い訳を閃いたカノンが、空気に耐えられずに逃げ出した。


「ちょっ、待った!せめて、説明してけ!」


「フーガの分も作って上げるから!んじゃ、あとよろしくっ!」


そう言って、予想通り居住空間だった扉の向こうへと消えていった。



その説明をどうしようか悩んでたんですけど…!

ええい、先手必勝!!


俺は意を決して声を張る。


「あの!俺は芦田風雅、こう見えても18です。さっき教会の地下でこんな物を見つけました!なにか知っている人はいませんか?」


ボロが出そうな結婚の話から逸らして、重要な情報を集める。カノンの反応からして、コイツは村の人にとっても初めて見る物のはずだ。



途端に皆の顔に疑問符が浮かび、ざわつきだす。

そして、若い男が手を挙げた。



「そんな道具は初めて見るな。俺は“鑑定”できるんだが、してみてもいいか?」


作戦成功!!

口では爽やかにお願いしますといいつつ、心の中で熱くガッツポーズをキメる。


これで意識を結婚の話から“神の枝”に向けることができた。情報も得られれば一石二鳥だ。



提案を承諾し、言われるままに絨毯の上に置く。そして、それを囲むように皆が覗き込む。足の隙間からは子供達も覗いている。



「じゃあ行きます。“鑑定”!」


お兄さんは片膝をつき両手をかざす。白い魔法陣が銃を中心に展開され、覆うように半透明のドームを形成した。銃が浮き上がり、ゲームの武器選択画面のようにゆっくり中央で回り始めた。


魔法を使った作業着のお兄さんが鑑定結果をスラスラと暗唱する。



「名称は“神の枝”。分類は中長距離武器。製造年月日…不明。製作者は“木の神”。最後に使用されたのはおよそ3900年前。周囲から魔力を集めることで睡眠、麻痺、宿り木状態にする弾丸を魔力がある限り発射できる。変型が可能で長距離用や中近距離用などの複数形態を持つ。」



凄い、本物の神器だ!!


予想していた2つの中間くらいの性能でバランスが良い。しかも、非殺傷武器というのが素晴らしい!きっと、木の神様は慈愛に満ちた神様なのだろう。


1人で感動する中、お兄さんは平然とした顔で続ける。


「この武器は自動修復機能付きで、この世から消し去らない限り破片から復活しますが、分裂して復活することは無いようです。防御結界も発動できますが、強度と修復速度はそこそこ。当時は値段がつかなかったみたいですが、現代の価値に換算するとおよそ250万円ですね。…で、どうします?換金しちゃいますか?もしくは寄贈します?研究機関に送ってもいいですね。」



次々と意外な言葉が飛んできて固まる俺に、彼の提案を咀嚼する余裕はなかった。

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