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彗駆の勘銃手〜オレは何しに異世界へ!?〜  作者: 諏訪秋風
第一章「彗星の如く駆けるは異世界」
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プロローグ

2015年3月13日。

この日、俺は初めて学校をサボった。

仮病ではないので、親にも学校にも断っていない。

イジメがあって行きたくなかったわけでもない。

期末テストも先週終わり、結果も帰ってきた。

だが、結果は良好。グレたわけでもない。



俺が学校に行きたくなくなる理由など、部活が走り練のときの他にない。




普段から真面目にそれなりに充実した高校生活を送っている俺は、



現在進行形で山登りをしている。



といっても登山ではない。舗装された山道を自転車で登っている。この季節に制服のまま激しい運動をしているので、大量の汗をシャツが吸って肌にピッタリとくっつく。学校に向かうはずだったので、教科書とお弁当の入った鞄が地味に重い。



この感情を共感してもらえるか分からないが

…なんとなくサボってみたくなったのだ。


春休み前で大した学校行事もなく、

受験が本格的になる前に、

理由もなくサボってみたくなった。


要はそういう気分になったのだ。


親や担任や顧問に問い詰められても、うまく説明できないだろう。その結果、怒られるだけならそれでもいい。気にしない。

どっちにしろ、今から行っても遅刻は確実だ。


むしろ、普段と違う行動をとったことを心配してくるかもしれない。その時は、いい気分転換になったと言って普段の日常に戻ればいい。




そんな打算的なことを考えているうちに、とうとう山頂の運動公園まで到達した。芝生の広場や部活の大会でたまーにお世話になるテニスコートがある。と言っても、ここは海抜124mのハズレ会場だ。




自動販売機でお茶を買って一服する。

やはり日本人はお茶だ。炭酸も悪くないが、運動の後でも俺はお茶を選ぶ。


500mlを一気に飲み干し、見晴らしのいいベンチを探す。出来れば海と街が一望出来る場所がいい。



テニスを楽しんでいる人達を横目に自転車を押す。



桜色を散りばめた春の街が目に飛び込んできた。

海の方に目をやると、おまけに行くべき高校ところも映り込む。こうして見下ろしてみると、四階建ての校舎もちっぽけに見えた。




ベンチに腰掛け、何も考えず、ヌボーっと眺めることで心が安らぐ。

このところ 頭を使い過ぎて、疲れていたのかもしれない。



「は〜…、このままずっとこうしてたい…。」




時刻は間もなく9時になる。

そろそろ連絡が来てもおかしくない。

先読みしてスマホの電源を切っておく。


うちの高校は一応携帯の使用を禁止しているが、守ってる奴をあまり見たことがない。

1限が終わるくらいに起動して、テニス部の奴らには一応伝えておこう。


…部活だけ出たら、それはそれで怒られるかな…。

…誰も気にしてくれなかったら寂しいな…。



だが、そんな心配も春風に吹かれることで、すぐに消えてしまった。


そんな穏やかな春の日だった。

















──9時18分。


公園の中心にあった時計はそこで時を止めた。


マグニチュード8.7、最大震度7、震源の深さ15km。

峻河湾内部で海岸から僅か30kmの地点で発生した。



後の調査で分かった事だが、海岸からすぐ近くの海底が10m近く隆起していたらしい。


これが発生した大津波を、規格外の規模へと押し上げたのだ。



地震発生からたった13分後。

20m弱の大津波が故郷を飲み込んだ。




…俺の記憶はそこから曖昧になる。

ハッキリし始めるのは、災害から一週間後。

仮設の役所でひたすら書類に記入する記憶からだ。





──死者3849人、行方不明者2818人。

そのどちらか一方に家族や友人達が含まれる。



津波は街を瓦礫の荒野に変えた。

家も、通学路も、高校も…もう何も無かった。



幸いにも原発や津波被害がなかった地域では、普段の備えによって目立った被害は少なかった。大まかな復興は早ければあと数年で完了するらしい。



世界は元に戻りつつある。

だが、俺の知っている世界は消え去った。



あの時、学校に行っていれば…

仮病で休んで、家に居たなら…



普段なら、そのどちらかしか有り得なかった。


だが


俺はその有り得なかった筈の、第3の選択肢を選んだ。



それも、ただサボるのではなく、山に登るという行為も付け加えて。


…マスコミには偶然だと言っておいたが、そうとは思えない何かが俺にはあった。


あの時の感覚は今も覚えている。

言葉にすれば「なんとなくそう思った」だ。





─それ以来、ささいなことでも沸き起こる同様の感覚を信じるようにした。


その結果、多くの人の助けを得られ、この世に絶望することなく生き抜くことが出来た。



この、理由や根拠の無い自信を持った予想や予感のことを


俺は《勘》と呼んでいる。


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