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ヤマキはのんびりと先を歩いていく。
自分の家からは随分離れている。
自分の家のあたりもそれほど建物が集まってたわけではなかったが、ここまでなにもなかったわけではない。
少なくともひとつ家があれば次の家までしばらく歩かなければならないなんてことはなかった。
「次の家だぜ」
ヤマキの言葉に頷きつつ、空を見上げる。
少しばかり離れてしまったが、あの城はまだ近くにある。
見失うことはなさそうだ。
「ねえヤマキ」
「お? なんだ、おちび」
むっと顔をしかめるコトコ。
確かに身長は小さいが、彼との差はそこまでないように見える。
「あの飛んでるやつのこと、知ってる?」
「あれは、あの蜂みたいなやつの巣じゃないのか? あれだけあの周りにいるんだから。間違いないぜ」
僕が知っているのは、あの城は壊さなければならないということだけ。
それがなになのかははっきり分かっていなかった。
彼の言う通り確かに、あれは蜂のようなあれの巣と見るのが正しいのかもしれない。
とすれば、あれを壊すことで平和になるというのも頷ける話である。
「あれがね、たぶんそのうち降りてくるの」
「ああ、そうだな」
「知ってるの?」
どうやら彼はその光景を見たことがあるらしい。
「日が登り始める前だな。一番冷える時間にあの巣は降りてくる。なんでなのかは知らないが」
「へー」
ちらりと僕に顔をむける。
コトコのおかげで巣が降りてくるだいたいの時間はわかった。
とは言っても、時間がわかったからといってあの蜂たちに対抗する手段がないことには変わらない。
「一緒にきてほしいな」
コトコは僕の考えていることがわかったらしい。
彼は蜂と戦うことができる。
その力はきっと必要になるはずだ。
見つからずに巣に入ることは不可能。
彼になにかしら事を起こしてもらえれば、それでいい。
「うーん。まあ、いいか。ついて行ってやるよ。でもそっちのニイちゃんは大丈夫なのか?」
「まだ熱っぽいけど平気」
コトコが代わりに返事をする。
なんで自分で言わないんだという話だが、ヤマキはそれで納得したらしい。
「仲間が帰ってないかだけ確認してからでもいいか? まだ日も落ちないから、間に合うだろ」
「いいよ」
コトコは自慢げに振り返って見てくる。
どうやらうまくいったらしい。




