終
「俺は、ヤマキ。俺とあいつは仲間なんだが……なんだ、お前たちもよく見たら仲間じゃねえか」
ヤマキはそう言って、彼女の首元を指差した。
晒されている青白い肌には、吹きついた雪がそのまま積もっている。
「……ほんとだ」
彼女は自分の雪を払い、そして僕の服に積もっていた雪も払ってくれた。
目が合う――何も言うなと、ただその意志だけは伝わってきた。
目の前に立つヤマキという少年は、ゆらりと腰を落としている。
いまにも飛び出しそうな姿勢に、汗が噴き出す。
触れることのできない殺意が、その視線が、僕の首に刺さっていた。
「ま、俺の思い違いか。人間の体っていうのは触れるもんでもないからな」
僕たちが手を握っているところを見て、ヤマキは構えを解いた。
息苦しさから解放され、しかしそこで表情を緩ませるわけにはいかなかった。
ふうと、彼が吐く息は姿を見せない。
僕が息をはいてしまえば、彼との違いは一目でわかってしまう。
「彼、風邪をひいているの。どこか休めるところない……?」
「……げほげほ」
息が白く吐き出される。
そんなごまかしで大丈夫なのか。
「なんだあ? 俺たちでも風邪引くのか。腹出して寝るのはやめなきゃならんな――おっけー。まあ、俺についてきな。とりあえず雪風は凌げる場所知ってるから」
ヤマキが背を向けたところで、やっとのところで落ち着いて息を吐く。
隣の彼女も安心したように息を吐いたが、彼女もまた、息の姿は見えなかった。
ヤマキは彼女と同じような存在なのだろう。
土から這い上がってきた、人間に似た人間ではない存在。
そしてヤマキは、自分と同じように土から這い上がってきた人間は仲間としてみているが――あの殺意。
普通の、僕のような人間は敵視している。
あの蜂と同じように、僕は殺されてしまうのだろうか。
「わたしのことはコトコでいいからね」
「え?」
「わたしにはその名前しかないから」
顔をそらして、彼女は歩き出す。
繋いでいた手が離れると、じんわりと体の熱が集まっていくのがわかった。
ふと、離れた彼女の手のひらを見つめる。
青く腫れているその小さな手のひらは、なんだか痛々しい。
「いこう、ノゾム」
その手のひらの痛みは、僕にはない。
声が出てしまうほどの痛みを堪えながら、それを隠し続ける彼女の強さも、僕にはない。
「ああ、いまいく」
僕と彼女は違うのだ。
なら僕は――――。




