14
外の冷たい風が、なぜか懐かしく思えた。
外の世界はまだ凍えたまま――このまま時間も固まってしまうのではないか、そんなことを考えながら、僕は歩みを進める。
家を出てからどれだけ時間が経ったのだろうか。
自分で言うのもおかしなことだったが、僕は間違いなく成長していた。
「……」
僕の袖を掴む彼女は、なにを考えているのだろう。
記憶はもう彼女自身のものになっているはずだが、どこか遠くを見つめるまま、言葉も発せずついてくるだけ。
ああ、まただ。
「……」
彼女は急に涙ぐむ。
ずびっと鼻水を啜って、体を震わせた。
話しかけたところで彼女は反応しない。
だんまり。
話すことを知らないのではないかと心配になるほどの、徹底的なだんまりだった。
「空を飛ぶ城は、彼女の話によれば……ああ、わかりやすい」
空を浮かんでいる城――というにはあまりに不格好だったが。
山が丸ごと空を飛んでいた。
どのように飛んでいるのかと目を凝らしてみれば、どうやらその山自身が飛んでいるわけではないらしい。
山の上にいる何かが、その山を持ち上げているようである。
蜂だ――。
抵抗手段のない、絶望的な相手である。
出会ってしまうことが直接死に繋がる。
あの場にいるということは、近づけばつまり、死にも近づくということである。
「まずはそれ以前の問題だな。どうやって空を飛んでいるあの場所にいくかだ」
かつてあった空を飛ぶ機械たちはもうない。
写真にみたことがあるだけで、もしかすればどこかにあるのかもしれないが、それを探しに行くことは無謀に思えた。
だからといってぴょんと飛び上がるだけであの場所にいけるのならそんな簡単な話はない。
「う」
彼女が初めて言葉を発した。
なにかを指差している。
指先を追ってみると、どうやら山の上にいる蜂のことを言っているようだが。
「ああ、あれは危ないやつなんだ。初めて見た?」
「……」
首を振る。
どうやら違うことを伝えようとしているようだが。
「う」
「う?」
「う」
「う?」
会話にならない会話が続く。
と、彼女はぱたぱたと手を振り始めた。
その動きは、鳥が空を飛ぶ動きを真似ているようだが。
「うぅ」
一頻り手を振った後ため息をついて、肩を落とす。
伝わらないと思ってやめたのか――いや、そうじゃない。
「ああ、なるほど」
彼女の言っていることはわかった。
確かにそれを狙ってみるのは悪くない。




