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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
5章 嘘つきの火傷
94/147

13

 

「失うことに耐えなくては――」


 猫の言葉は、耳に入ってこなかった。

 箱の中で涙を流す琴子の姿だけが、僕を捉えてしまっている。


「間違っているのよ。わたしがこの体を動かしていることが」

「じゃあお前はどうなるんだよ」

「わたしはもともと死んでいるのよ? どうなるもなにもないわ」


 琴子は死んでいる。

 では、僕がこれまで話していた琴子はどうなるんだ。

 記憶を失ってしまう彼女はどうなってしまうんだ。


「わたしが消えるだけよ。きっと記憶だけは残るはず。あなたとこうして話していることも、忘れることなんてない」


 死に行く人を止められないことが悔しかった。

 彼女がどうしてそうなったのか知ってしまった以上、そのような歪んだ人間がいてはいけないと思ってしまっていた。

 ほんのすこしの時間だった。

 何を話していたのか、全部思い出せるくらい――本当にすこしの間しか一緒にはいなかったのだ。


「掴んでくれてありがとう。うれしかっ――――」


 がくりと琴子は何かを失って倒れこむ。

 箱はゆっくりと開かれる。

 気づけば、近くにいたはずの猫はもういなくなっていた。

 ここでの事はもう済んだということなのだろうか。

 目をつむったままの彼女の姿は、やはり琴子のままだったが――しかしどこか幼く見える。

 見ているうちに、琴子の顔を忘れてしまいそうな気がして、目をそらした。


「先に進んでやる。僕は、ここで足を止めたりなんかしない」


 部屋が揺れる。

 まるで俺の声に反応したようだったが。

 揺れが静まっていくと、部屋の壁に扉が出てきていた。

 1という数字が刻まれている。



 ――――――――



「……何か、音がした」


 銀色の肌、醜い目。

 部屋の隅で息をひそめるように座っていた何かは、のっそりと起き上がる。

 部屋に唯一ある扉には、3という数字。


「ああ、やっと終わる」


 やがて扉が開き、だれかがやってくるだろう。

 その時を彼女は待っていた。

 静かに眠る事ができる日を、ただずっと、待っていた。


 部屋が揺れやがて光が入ってくる。

 そこには二人の子供が立っていた。


「最後の試練よ。5人目」


 失う事を知り、選ぶ事を知り、許す事を知り、そして――


「壊す事を知りなさい。それが4つ目の試練。私達からの最後の試練よ」

「……」

「空を飛ぶ城を破壊。そして――」


 子供達は外へ出て行く。

 やがて彼は、ここに帰ってくるだろう。


「僕がこの凍えた時代を終わらせてやる」


 彼の声に、迷いはなかった。


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