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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
5章 嘘つきの火傷
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 第一の部屋。

 天井までの高さ、目測10メートル。

 奥行きもおそらく同じ距離だ。

 綺麗な正方形になっているのかもしれない。


「さ、どんな仕掛けがあるのかしらね」


 部屋の中にあるのは、3つの絵画だった。


「ひとつずつ見ていこう。扉も見当たらないし、ヒントは絵にあるのかもしれない」

「絵を押したら開くなんてことはない?」


 絵に手を伸ばそうとする琴子。

 僕は慌てて彼女の手をつかんだ。


「な、なに?」

「足元をよく見ろ」


 絵の前、足元にはなにか染みのようなものがある。

 そして白い欠片。

 血の跡と骨だ。


「絵に触れるのはやめておいたほうがいいと思うが」

「ふ、ふふふ……触らなくてよかった」


 絵が扉になるという説はこれでなしだ。

 どの絵にも血の跡がある。

 どれかがダミーなのかもしれないが、まあまずは絵を見てからの話だ。


「右から見ていくか――。僕と同じ年くらいの子供と、猫?」

「なんだかずいぶん貧乏くさいというか……ボロボロのフード付きマントに杖って身なりを見ると、なにか冒険家のようにも見えるわね」


 痩せ細った体に、傷だらけの肌。

 きっと楽な人生ではなかったのだろう。

 しかし、空を仰ぐその表情には、まるでなにもかもから解き放たれかのような、幸せそうな笑顔が見えた。

 足元の猫は少年の顔を見上げ、崖に立つ彼の姿を心配そうに眺めている。


「次を見てみましょ。これは――鬼?」

「角生えてるから鬼って子供――」

「い、いまは子供だから! ふ、ふふ……あ、ああよく見たらなにか持ってるわね」


 少年が手に持っているものは角だ。

 少年には頭に一本だけ角がある。

 左側だけにあり、なんだかそれでは不格好に見えた。

 持っている角は、もしかすれば右側のものだったのかもしれないが。

 おそらく室内にいる姿を絵にされたのだろう。

 机の上にはいくつもの本が積み上げられ、彼はなにかの研究者だったのかもしれない。

 本に囲まれるようにして置いてある杯には、なにか赤い液体が溢れていた。


「この絵にもヒントはなさそうか。最後の一枚を見よう」

「女の子みたいよ。この一枚だけが女の子なのね。まるで聖職者のような服装だけど」


 足元に転がっている鉄球の先には、彼女の足がある。

 おそらく石でできた椅子に、まるで磔にされているようだった。

 それでもその少女の表情は柔らかい。彼女に向けていくつもの影が走り、おそらくその先には彼女の死があったのだろう。

 なにかを振りかぶる人影に違いない。


「なにかわかった?」

「いや――」


 絵にヒントがあると考えるのは間違っていたのかもしれない。

 改めて部屋を見渡してみる。

 壁にはいくつか窪みがあり、全部で20。

 そのうち3つに絵がはまっているのだ。

 ぐるりと部屋を回るようにしてある窪みに触れるのは、やはり危険のように思えた。


「ノゾム、こっちきて」


 琴子が手招きをしている。

 なにかを見つけたようだ。


「これ……」


 琴子の指差す場所には、剣、杯、杖、硬貨がそれぞれ描かれた絵が転がっている。


「触って大丈夫?」


 拾い上げる僕を気づかって琴子は言うが、おそらくその心配は必要ない。

 これが鍵だ。

 改めて絵を睨みつける。

 3枚の絵は揃って同じ壁にある。

 開いている窪みは2つ。

 今回他の壁の窪みは関係なさそうだ。

 剣、杯、杖、硬貨――この4つの絵でその窪みを埋めればいいのか。


「2つがハズレってことかな」

「はめて外してってやってみる猶予はなさそうだしなあ」


 絵がはまっていない窪みの下にも、血の跡はある。


「まだ他にもあるかもしれないな。もう少し探してみよう」



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