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第一の部屋。
天井までの高さ、目測10メートル。
奥行きもおそらく同じ距離だ。
綺麗な正方形になっているのかもしれない。
「さ、どんな仕掛けがあるのかしらね」
部屋の中にあるのは、3つの絵画だった。
「ひとつずつ見ていこう。扉も見当たらないし、ヒントは絵にあるのかもしれない」
「絵を押したら開くなんてことはない?」
絵に手を伸ばそうとする琴子。
僕は慌てて彼女の手をつかんだ。
「な、なに?」
「足元をよく見ろ」
絵の前、足元にはなにか染みのようなものがある。
そして白い欠片。
血の跡と骨だ。
「絵に触れるのはやめておいたほうがいいと思うが」
「ふ、ふふふ……触らなくてよかった」
絵が扉になるという説はこれでなしだ。
どの絵にも血の跡がある。
どれかがダミーなのかもしれないが、まあまずは絵を見てからの話だ。
「右から見ていくか――。僕と同じ年くらいの子供と、猫?」
「なんだかずいぶん貧乏くさいというか……ボロボロのフード付きマントに杖って身なりを見ると、なにか冒険家のようにも見えるわね」
痩せ細った体に、傷だらけの肌。
きっと楽な人生ではなかったのだろう。
しかし、空を仰ぐその表情には、まるでなにもかもから解き放たれかのような、幸せそうな笑顔が見えた。
足元の猫は少年の顔を見上げ、崖に立つ彼の姿を心配そうに眺めている。
「次を見てみましょ。これは――鬼?」
「角生えてるから鬼って子供――」
「い、いまは子供だから! ふ、ふふ……あ、ああよく見たらなにか持ってるわね」
少年が手に持っているものは角だ。
少年には頭に一本だけ角がある。
左側だけにあり、なんだかそれでは不格好に見えた。
持っている角は、もしかすれば右側のものだったのかもしれないが。
おそらく室内にいる姿を絵にされたのだろう。
机の上にはいくつもの本が積み上げられ、彼はなにかの研究者だったのかもしれない。
本に囲まれるようにして置いてある杯には、なにか赤い液体が溢れていた。
「この絵にもヒントはなさそうか。最後の一枚を見よう」
「女の子みたいよ。この一枚だけが女の子なのね。まるで聖職者のような服装だけど」
足元に転がっている鉄球の先には、彼女の足がある。
おそらく石でできた椅子に、まるで磔にされているようだった。
それでもその少女の表情は柔らかい。彼女に向けていくつもの影が走り、おそらくその先には彼女の死があったのだろう。
なにかを振りかぶる人影に違いない。
「なにかわかった?」
「いや――」
絵にヒントがあると考えるのは間違っていたのかもしれない。
改めて部屋を見渡してみる。
壁にはいくつか窪みがあり、全部で20。
そのうち3つに絵がはまっているのだ。
ぐるりと部屋を回るようにしてある窪みに触れるのは、やはり危険のように思えた。
「ノゾム、こっちきて」
琴子が手招きをしている。
なにかを見つけたようだ。
「これ……」
琴子の指差す場所には、剣、杯、杖、硬貨がそれぞれ描かれた絵が転がっている。
「触って大丈夫?」
拾い上げる僕を気づかって琴子は言うが、おそらくその心配は必要ない。
これが鍵だ。
改めて絵を睨みつける。
3枚の絵は揃って同じ壁にある。
開いている窪みは2つ。
今回他の壁の窪みは関係なさそうだ。
剣、杯、杖、硬貨――この4つの絵でその窪みを埋めればいいのか。
「2つがハズレってことかな」
「はめて外してってやってみる猶予はなさそうだしなあ」
絵がはまっていない窪みの下にも、血の跡はある。
「まだ他にもあるかもしれないな。もう少し探してみよう」




