終
体に積もっていた雪を払って、ナナカが起き上がるとそこには瓦礫はなかった。
空を見上げると、浮かんでいた巣の姿はもちろんない。
破壊したのだから、巣の残骸は近くにあっていいのだが。
ナナカは自分の体になにの痛みもないことに気がついた。
かなりの高さから落ちたというのに痛みもない。
導き出される答えは一つだった。
「エイジ……」
もしかすれば、まだかすかに生きていた姉がということもあるのかもしれない。
しかし、ナナカには彼がやったと、他に考えることはできなかった。
落ちていく瓦礫の中、ナナカを拾い、安全な場所まで運んでくれたのだ。
「ならどうして」
隣に彼の姿はない。
足跡も残っていなければ、どこに行ったのか予想することも不可能だった。
首に巻かれたぼろぼろのマフラーが――おそらくもう二度と、彼に会えないとそんなことを言っているような。
ナナカにはそう思えた。
「帰ろう」
見覚えのある場所。
基地にずいぶん近い。
歩いてそれほど時間もかからないだろう。
吹雪の中を一歩一歩確かめるように歩いていく。
ほんの少し先が霞んで見えない。
伝う涙を袖でぬぐって、吹雪のせいなのか、涙のせいなのか、そんなことを考えながら歩く。
帰ってなにをしようか。
自分をなぐさめようとして考え始めたことだったのに、考えれば考えるほど、流れ出す涙は止まらなかった。
終わったのだから。
もう彼が帰ってこなかったとしても、ナナカはあの基地の中で幸せに生きていける。
開いたままだった基地の扉を抜けて、ナナカは入っていく。
ヒビキの姿を探して、彼がいそうな場所を探して――。
「もう終わりにしてよ」
またいつものようにわざと焦げさせて、呆れるようにため息をつく彼の姿はもう見ることができない。
そうしてため息をついている姿を見ることが、ナナカにとって一番の幸福だった。
いつも重いことばかりを考えている彼には、そうして気が抜けることがあるほうがいいとずっと思ってきたのだから。
「あたし、もう一人なんだ……」
ヒビキもいなければ、エイジもいない。
もう誰も、彼女の隣にはいない。
幸せそうに目を瞑るヒビキの頰を撫で、伝わってくる暖かさに目を細める。
彼が死んでからもうずいぶん時間が経っているはずだ。
彼女に伝わる暖かさというものはありえない。
ただ、彼女の冷たさよりも劣っているというだけ。
ナナカは横たわるヒビキの横に転がって、目をつむった。
同じようにしていれば、自分も同じところにいけないだろうか、そんなことを考えていた。
「おやすみ」
せめて夢の中では幸せな時を。
ナナカの願いは、ただそれだけだった。




