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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
1章 ペンダントは宙に
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7 不穏

 暗くなってきた。

 雪は白いけれど、暗くなっては、その白色は薄くかすれて消えていく。


「そろそろだな」

「……二人いますけれど」

「右は俺がやる。お前はこの建物の裏に回って下に降りるんだ。見つからなければ左のやつの丁度後ろに出る」

「本当にやらなくちゃいけないのか?」


 軍の兵士たちとはまだ話もしていないというのに――いきなりの襲撃に瑛士は抵抗があってならなかった。

 武装はしているがそれはきっと彼らに向けられることは


「そんなことはない。恵美の足は軍にやられたやつだぞ」

「え……?」


 杖をついた佐上の妹――恵美と呼ばれる少女に目を向ける。

 彼女の右足は包帯で巻かれていて、うっすらと赤い染みが浮き上がっていた。

 その傷跡が一体何によるものなのか――言うまでもなく、彼、佐上の持っている銃なのだろう。

 それは一般人がもっていいものなんかではなくもちろんそれはだれかから奪ったもので――兵士から奪ったもので――。

 つまりは、兵士たちは人を助ける気がないということなのだろうか?


「兄さん、私は?」

「恵美はここで待ってろ。ここからなら軍の場所も見える。俺とそいつがやったのを見たら、すぐに来るんだ――警戒はして、何かがあったら声をあげるんだぞ?」


 彼女は頷く。


「奈々嘉も一緒に彼女と待っているんだ」

「でも……」

「大丈夫だ。すぐに終わる」


 洋館から出て、男の方をちらりと見てから裏に回る。

 確かに滑り降りるとうまく軍の後ろに行けるようだけれど――ここから見えているということは、あちらからも見えるということだ。

 それはあまりよくない。見つかればそれで終わり――。

 よく見ると、見ずとも分かっていたけれど、軍の兵士は二人とも銃器を持っているようだ。

 あれはいったい何に対して、何に対抗するために持っているのかが――そこで思考を止める。


「いまさら逃げることなんてできないさ」


 ナイフを握って、いまこの瞬間に兵士たちが去ってくれないかと思う――できれば殺したくなんかないし、これ以上罪を重ねたくなんかない。

 同じ殺すにしても、化け物と生きた人間とでは全くというほどに違う。

 罪の重さが変わってくる。

 それは、生かすために逝かすことはできない。殺すために殺すことしかできない。


「――」


 身を乗り出して、木々の間を滑っていく。

 音を立てないようにとは思いはするけれど、やはりそううまくいくものでもない。

 土を削る音、枝を弾く音――たいした音でもないはずなのに、やけに耳につく。

 目を軍の兵士の方へ向けて、睨みつけるように監視する。

 その途中で、兵士を挟んだ反対側からちらりとなにかが光ったのが見えた。

 向こう側にあの男がたどり着いたということだった。

 スピードを抑えることなく、一気に駆け下りる。

 まさかに後ろに回ってくるとも思わないだろう、後ろの警戒は甘く――


「ごめんなさい」


 腕を首に回して、ナイフを首元に突き刺す。空気が抜けるような音がして、血が吹き出した。

 ガクガクと体が揺れ、音を立てさせないように瑛士は体を押さえつける。


「なかなかうまいじゃないか」


 どさりと音がして、佐上という男もやることを終えたのだと理解する。


「さて、あとは待てばあいつらも来るだろ――」


 そう気を抜いていた。

 そうやって、もう大丈夫だと思い込んでいた。


「いやぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 その悲鳴が轟くまでは――。


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