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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
4章 終わりを求めて
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「この星には決まりごとがあってね。

 ある種が増えすぎると必ずその種は削られる。

 ある一種が星を支配することは赦されない。

 現にこの星で人類は4度文明を失い、あまりに多くの犠牲を出している。

 まるで信用ならない話だけれど、これが私の知っている世界の決まりだ。

 4度も粛清をくらったのは人類くらいのようだが、それでも多くの種が人類と同じようにほぼ絶滅までダメージを受けた。

 氷河期は人類に対してのものではない。全種族に対する粛清だ。

 増えすぎれば星自身の負担にしかならないというところなのだろう。


 4度目の種の危機は、氷河期だった。

 その時代を私は魔導期と呼んでいるが――生き残るためにある生物を作り出した。

 彼女は普通のどこにでもいる人だった。

 ただ都合が良かっただけだ。

 彼女は人を捨てさせられ、そして――。

 その結果、人類は4度目の危機を乗り越えた。

 彼女を犠牲にしてな。


 歴史というものは繰り返されるもの――人類は5度目の粛清を迎えた。

 私が見つけていた4度目の粛清があった時代、魔導期の記録のおかげで彼女の存在を知った。

 国は喜んだだろう。私も喜んだ。

 皆が助かる、そんな結果があると信じていたからだ。

 私は必死だった。

 彼女一人だけでは、負担がかかりすぎる。

 4度目の粛清で、彼女は耐え切れず死亡しているのだ。

 何人も、な。


 彼女は犠牲者だ。

 これ以上彼女を増やすわけにはいかない。

 だから私は、作ったのだ。

 彼女に負担をかけない方法を。

 ところがどうだ。私が作ったものを見た途端に、彼らは逃げ出した。

 生き残るのは自分たちだけでいいと、地下に隠れ家を作った。

 助かるのは一部の人間だけだ。

 そんなことが許されていいのか。

 自分たちだけが生き残り、他を見捨てる――私は彼らが許せなかったのだ。

 この国の呪われた人間たちが。


 考えなくともすぐにわかることだった。

 彼らは犠牲の上に生きてきた人間だ。

 自分たちさえ無事であればそれで良かったのだ。

 私は、彼らこそ滅ぶべきだと考えたのだ。

 腐った人間共の血をここで終わらせなければ。

 生き残る権利があるのは、立ち向かった人だけだ」



 ナナカには、彼の話のほとんどが理解できなかった。

 なにかが歪んでいる。

 彼女にわかったのはそのくらいのことだ。

 そんな話を聞いたところで、彼が正しいと思い直すことはない。

 ナナカにとって彼は敵であり、エッジにしてもまだ見ぬマザーにしても敵だ。


「君が殺すべきなのは、私が救った人ではない。君は地下に眠る人間を滅ぼすべきなのだ」

「人って――」


 あのような禍々しい尾をもった人がいていいものか。


「あれのどこが人なのよ! あれこそが人を滅ぼす元凶じゃない!」

「彼らは生きている。あの結晶はある温度を越えると自然に溶け始めるのだよ。ただ、薬の毒素をそのままにしては、目覚めた時に障害が生まれる可能性がある。抽出した毒を放出する――そのための、尾だ」

「そんなの……」

「毒素は有限だ。彼女の体の負担を減らす方法――毒素の再利用だよ。そして毒素を全て出し切った後――」


 ナナカの前にあったのは、氷像のようなものだった。

 おそらく巣の中で一番の広さを持つホールのような空間に、人の像が並んでいる。

 極限にまで結晶を削ったような――もう少し削れば、人の肌が見えてしまうだろう。


「見当違いだ。君がしてきたことは、ね」


 ナナカはこれまで何人ものガラス人間を屠ってきた。

 エッジにしたって、何度も何匹も――。

 それらを全て放置したままだったら、彼らは助かったのだという。


「信じられない! そんなこと! そんなこと! ガラス人間に殺された人だっているわ! あなたが正しいわけがない!」

「大丈夫さ。脳を食べられていれば、記憶は受け継がれるからね。記憶があるということは生きているということ」


 ナナカは思い出していた。


「とはいっても、全員がそうして脳を食われたわけじゃないだろう。それでも肉は受け継がれる。だから、間違ってはいないのさ。私は全員の人を救っているんだよ。そして皆で、地下に逃げ込んだ薄汚い人間どもを滅ぼすのだ」


 記憶が受け継がれる――そんなことがあるわけない。

 ナナカの脳裏に浮かんだのは、エイジと初めて出会った時――頭部を破壊したガラス人間だ。

 まるで何かを待つように、口をぱくぱくとさせて彼と向き合っていた姿を思い出す。

 ナナカは今にして思う。

 あれは、彼を襲っているようには見えなかったと。


「あぁ……」


 頭部にかぶりついた跡があった。

 大門の言うことが正しいのなら、あのガラス人間には記憶が受け継がれたのだ。

 その一瞬、人としての記憶を取り戻したのなら。


 口を開けて、あのガラス人間はなにかを待っていた。

 パクパクと口を動かして、なにかを待っていた。


「嫌だ……そんなはずない……」


 あの口の動きは――殺してくれと、彼に懇願していたのだ。

 どさりと、なにかが落ちる音がした。


次回投稿は6月13日月曜日予定です

しばらく時間が空いてしまい申し訳ございません

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