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「……」
エッジとマザー。
マザーに関しては、まだどのような姿をしているのかわからない。
ただ、ナナカの前に立っているその生物が、マザーというものではないことは一目でわかる。
巣に卵がないことも異常だったが、その生物がこんなところにいるというのは一番の異常である。
それは彼女自身もそうであったが――。
「いらっしゃい」
エッジを従えた男性は、おそらくは50を過ぎたほどだろうか――エッジの尾を撫でて、その姿から共存していることが一目でわかる。
彼は間違いなく普通の人間だ。
ナナカはその光景に恐怖した。
人とエッジに共存はありえない。
敵だとナナカは判断した。
「待ちなさい。何も争う必要はないだろう。特に、君のようなものにとっては」
「……何が言いたいんです」
「君はこちら側。人間の味方をする必要はない」
手を差し伸べる男に、悪意のようなものは全く感じられなかった。
何より自分自身が見透かされているのが恐ろしかった。
自分のことは誰以上に自分が知っているはず。
自分の知っていないことが、その男にはわかっているというのだ。
「私は大門。どこにでもいる研究者だ」
敵陣にいるのだから、そこにいるのは全て敵だ。
大門という存在を知らないナナカでも、彼の異常性が、危険性が――はっきりと感じ取ることができた。
「ついてきなさい。君にはこの世界を知る義務がある」
伸ばしていた手を戻して、大門は奥へと進んで行く。
彼のすぐ後ろを飛んでいるエッジが振り向いてすぐに攻撃をしてくる可能性がある。
いや――と、ナナカは考える。
彼は危険人物だ。
このまま素直についていく必要もないし、そもそもこの場にいるエッジは彼の両側を飛ぶ二匹のみ。
「いける――」
片方を一撃で破壊し、一対一なら負けはない。
あとは、あの男を取り押さえる。
「やめておいたほうがいい」
「……」
「そんな怖い顔をしないでおくれ。そうか、ならこうしよう」
男が手を振ると、隣にいたエッジたちは離れていく。
「これで、少しは信用してくれるかね」
大門は柔らかい笑みを浮かべたが、ナナカの表情はかたいままだ。
彼は手を振るだけでエッジに『離れろ』という命令を与えた。
ならば、逆もできるはずである。
もうナナカに逃げ場はなかった。
取り押さえられるのは自分のほうだったのだ。




