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「kkkkkkk」
彼女が切ったのは、小さな木片。
ナナカだけができる荒技である。
「あたし、なぜかわからないけど、ガラス人間と木片たちに襲われたことが一度もないの。あなたたちエッジ以外に敵はいなかった」
小さな木片である以上、そんなものではエッジに対抗はできないが。
「この子たち、食べることが得意なの。痕跡さえ残らなければ、ここでだれも戦っていないことになる」
小さな木片が声を上げて口を開いた。
その口に広がる暗闇は、終わりがない空洞。
一度喰われたものは戻ってこない。
「破壊します」
頭部に刺さる拳――飛び散る金属片を、木片たちは喜んで喰らった。
この方法であれば、屍は残らない。
いくら体の小さな木片でも、喰べる能力が変わらないことは経験で知っていた。
動かなくなったエッジを見下ろして、ナナカは動き回る木片たちを眺める。
どうして自分が襲われないのか――自分が命じれば答えてくれるのか――そんなことを気にするのは今更な話だったが、ナナカはこうして木片を作り出すたびに考える。
この方法はあまり使いたくなかったため、ナナカはずっと彼女に預けていたわけだが。
短くなったガラスナイフを握って、辺りを見渡した。
この方法は何度も使えない。
ナイフはいつかなくなってしまうだろう。
「落ち着け、あたし」
もうお別れはしたのだ。
もう姉であるあの人は死んだのだ。
自分を納得させる。
ここで引き返して助けに行く――そんなことをしたところで、彼女を救う方法はないのだ。
巣から落としたって、簡単に見つかってしまう。
前に進むことしか、ナナカには道がない。
半分ほど喰われたエッジを置いて、ナナカは奥に進む。
あとは木片たちが処理してくれるはずである。
「次のことを考えなきゃ」
すでに知らない事にぶつかった。
これより先も、知っている事だけがあるとは思えなかった。
ナナカは例の工場前を横切り、さらに奥へ進んでいく。
彼女の手先は、恐怖で震えていた。
想像すればするほど、この先にあるのは死。
自分を傷つけることができる存在エッジと、それを統べるマザー。
まだ他にもなにかがいる可能性は十分にある。




