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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
4章 終わりを求めて
74/147

4

  巣に本来あるはずのもの――。

 それは卵だった。

 エッジがどんな生き物なのか、それは蜂に似た生物であり、蜂に似た習性をしている。

 しかしだからといって、蜂と全く同じだという話は通らない。

 卵から、幼虫となり、蛹となりやがて成虫になるような過程は、エッジには存在しなかったのだろう。

 現実はそんなに簡単なものではなかった。


「いままであたしは……」


 結晶の固まりが向かう先には、鋼の鎧。

 彼女たちがこれまで見てきたエッジの尾の部分だ。

 球体となった結晶を包み込んだ鋼の鎧は、一部分だけ穴が空いていた。

 円錐型の尾の頂点だ。

 そこには針がつくはずである。


 ある一匹のエッジが、ドリルのようなものでその穴から見える結晶に穴を掘り始める。

 流れ出すのは、あの――鼻につく刺激臭だ。

 流れ出す液体を抑えるように針を差し込む。

 尾の完成だ。


 ナナカが先を見てみると、そこには尾より上、胴体と頭が、飛んでいた。

 それはただ、燃料を待つ車のような光景である。

 それはまさに機械だった。

 羽音だけは聞こえても、声は聞こえない。

 あの、聞いただけで危険を感じさせるあの声は、聞こえない。


 完成した尾を、胴と繋げる。

 こうして、一匹のエッジが完成した。


「KAKA――」


 そうして、声を発する。

 知識というものを初めて手に入れたエッジは、話すということを知る。

 いや、思い出したというほうがいいのだろうか。


「美海姉ちゃん――」


 ナナカをここまで運んでくれた彼女の体は、全身が結晶に覆われてしまっている。

 だとすれば、もし見つかってしまえば、エッジという姿になってしまう恐れもある。

 真実を知ってしまった以上、すでにお別れを済ませたとしても耐え難いことだった。


 慌てて起き上がり、走り出す。

 それまで音を立てないように歩いてきた彼女は、もう冷静ではなかった。


「KAKAKAKAKAKAKAKAKAKA――」


 ここは敵地である。

 音を立ててしまうことの危険性を知らないわけではない。

 この空間は彼らの住処である。

 外にいる一匹を相手にするわけではない。

 見つかってしまった時点で、戦闘は避けられない。

 ナナカに数匹を相手にすることは難しくないことだ。

 一匹を処理し、二匹目を処理し――そうして繰り返していくと、例えその場凌ぎにはなったとしても屍は消えない。

 だれかが侵入しているかもしれない疑惑と確信では状況が異なる。

 屍をみれば、エッジたちは必死になってその犯人を捜すだろう。

 そうなってしまっては、知らない場所にいるナナカには勝ち目がない。


「……」


 彼女は腰に掛けていた袋からなにかを取り出す。

 続けてナイフを取り出した。

 どちらも美海の持っていたカバンから借りてきたものだ。

 屍を残さない方法は――彼女に思いついたのはひとつだけだった。

 殴り続けて粉々にする方法も思いついたが、そんなことはできるはずもない。


「ガラス人間の結晶ナイフ――このナイフの使い道は、切りつけるだけじゃない」


 手に握っていたなにかを放り投げる。

 一瞬、ナナカはそのなにかを切り刻んでいた。


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