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巣に本来あるはずのもの――。
それは卵だった。
エッジがどんな生き物なのか、それは蜂に似た生物であり、蜂に似た習性をしている。
しかしだからといって、蜂と全く同じだという話は通らない。
卵から、幼虫となり、蛹となりやがて成虫になるような過程は、エッジには存在しなかったのだろう。
現実はそんなに簡単なものではなかった。
「いままであたしは……」
結晶の固まりが向かう先には、鋼の鎧。
彼女たちがこれまで見てきたエッジの尾の部分だ。
球体となった結晶を包み込んだ鋼の鎧は、一部分だけ穴が空いていた。
円錐型の尾の頂点だ。
そこには針がつくはずである。
ある一匹のエッジが、ドリルのようなものでその穴から見える結晶に穴を掘り始める。
流れ出すのは、あの――鼻につく刺激臭だ。
流れ出す液体を抑えるように針を差し込む。
尾の完成だ。
ナナカが先を見てみると、そこには尾より上、胴体と頭が、飛んでいた。
それはただ、燃料を待つ車のような光景である。
それはまさに機械だった。
羽音だけは聞こえても、声は聞こえない。
あの、聞いただけで危険を感じさせるあの声は、聞こえない。
完成した尾を、胴と繋げる。
こうして、一匹のエッジが完成した。
「KAKA――」
そうして、声を発する。
知識というものを初めて手に入れたエッジは、話すということを知る。
いや、思い出したというほうがいいのだろうか。
「美海姉ちゃん――」
ナナカをここまで運んでくれた彼女の体は、全身が結晶に覆われてしまっている。
だとすれば、もし見つかってしまえば、エッジという姿になってしまう恐れもある。
真実を知ってしまった以上、すでにお別れを済ませたとしても耐え難いことだった。
慌てて起き上がり、走り出す。
それまで音を立てないように歩いてきた彼女は、もう冷静ではなかった。
「KAKAKAKAKAKAKAKAKAKA――」
ここは敵地である。
音を立ててしまうことの危険性を知らないわけではない。
この空間は彼らの住処である。
外にいる一匹を相手にするわけではない。
見つかってしまった時点で、戦闘は避けられない。
ナナカに数匹を相手にすることは難しくないことだ。
一匹を処理し、二匹目を処理し――そうして繰り返していくと、例えその場凌ぎにはなったとしても屍は消えない。
だれかが侵入しているかもしれない疑惑と確信では状況が異なる。
屍をみれば、エッジたちは必死になってその犯人を捜すだろう。
そうなってしまっては、知らない場所にいるナナカには勝ち目がない。
「……」
彼女は腰に掛けていた袋からなにかを取り出す。
続けてナイフを取り出した。
どちらも美海の持っていたカバンから借りてきたものだ。
屍を残さない方法は――彼女に思いついたのはひとつだけだった。
殴り続けて粉々にする方法も思いついたが、そんなことはできるはずもない。
「ガラス人間の結晶ナイフ――このナイフの使い道は、切りつけるだけじゃない」
手に握っていたなにかを放り投げる。
一瞬、ナナカはそのなにかを切り刻んでいた。




