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巣の中への侵入に成功したナナカは、まず自分がどの辺りにいるのか予想を立てる。
彼が――エイジが入ったのは上の方だった。
エッジがそこに集まっていたから、手薄になっている最下部へ侵入したまではよかったが、もちろんそこに入り口があったというわけではなく強引にぶつかって穴を開けただけ。
エッジが集まってくるのも時間の問題だろう。
動かなくなってしまった亡き姉の姿を見つめ、その姿はもう人としての原型も留めていなかったがこのままにしおくのは気が引けた。
しかし、のんびりとしている時間もない。
「行ってくるね」
お別れはすでに済ませたのだ。
たとえ墓を作れたとして、きっとこの戦いが終わる頃には、自分自身も生きているのかどうかもわからないのだから。
もう人が生き残っていないのではと考えれば、そんなことをするのは無駄である。
ナナカはすでに先を見ていた。
もうそこは敵陣。
味方はどこにもいない。
「おそらく一番上に女王、マザーがいる。エイジがどうしてしまったのかわからないけれど、彼もきっとそこにいるはず」
彼女の頭の中は、これまで生きてきた中で一番活発に動いていた。
どうすれば生き残れるのか、この敵陣の中どう戦うのかを考えている。
と、巣の中を進んでいると妙な違和感に襲われる。
巣にしては、あるべきはずのものが見当たらない――。
どれだけ奥に進んでいっても、その違和感は増していくだけだった。
一人で不安になったわけではなかったが、通信機にはなしかける。
返事はなく聞こえるのは雑音のみ。
なにかしら電波を邪魔するものがあるのかもしれないと、ナナカは判断した。
内部はほとんどが土のようなものでできているが、それにしたって建物が人間の建物に似ている。
空を飛ぶエッジたちには、階段なんてものは必要ないものであるし、だれも踏まないおかげか床はやけに綺麗だった。
ナナカの感じていた違和感はそれとは違うものだが。
「……耳痛い」
巣の中はおそらく全てが扉もなく繋がっている。
巣の中には外にいたエッジの何倍もの数が潜んでいるだろう。
それ全てがあの気持ちの悪い羽音を立てているとなれば、この巣の中に響く羽音は尋常なものではない。
しかしここで耳を塞いでしまえば、エッジの接近に近づけない。
頭にまで響く爆音に歯を食いしばる。
「――!」
「ん?」
羽音の中に、声が混じっている。
なにかに抵抗するような声だ。
人の声だ――。
そんなはずはない。
ここに、普通の人間がいるわけがない。
ただ、それを無視して行くわけにはいかなかった。
幸いと言っていいのかどうかはまだ分からないが、その部屋の前を通らなければ、次の階段には行けない。
軽く覗いてから行こう、ナナカはそう考えた。
そこで、ナナカは違和感の正体に気がついた。
ここが巣であるというのであれば、山ほどあるはずのもの――。
この巣には一つもない。
エッジがあれだけの数いるのであれば、もちろんそれがないはずがないのだ。
「そんな――」
中は工場のようになっている。
エッジに運ばれていく結晶の固まり。
中にはうっすらと人影が見える。
ガラス人間の成れの果て――。
これまで見たことのなかった最後の姿。
その先にある、ガラス人間のゴール地点。
ナナカはその地獄のような光景に、腰を落とした。




