8 カゾク
「あたしはフタコ。二人目よ」
出迎えてくれた女性は、そう言っておれの頭を撫でた。
「僕はミツキ。三人目だ」
ハジメと入れ変わるように奥からやってきた青年。
おれより少し年上だろうか――二人とも、おれの兄と姉だ。
なんとなくだけれど、二人とも雰囲気が母親に似ている。
「おれはシータです。その……四人目です」
まだその名前に慣れないが、名前で呼ばれることは嫌じゃない。
大門という苗字が嫌だったわけではもちろんないが。
「私は三崎です。助けていただいてありがとうございました」
三崎は頭をさげる。
二人はその姿を見下ろして――その目には優しさのかけらもなく、少なくとも人に向けるような、仲間に向けるような視線ではなかった。
その違和感は、気のせいではない。
まるで、兄弟ではない彼女は、家族にはなれないというような態度がでてしまっているようだった。
口先だけでは家族と言っても、思っていることは違う。
「シータ! こっちにこい」
「いまいく」
ハジメによばれたので部屋の奥に向かった。
なにか地図のようなものが貼ってあって、細かく文字が書き込まれている。
「お前が来てくれたから、これで人数が揃った。作戦を実行に移せる」
「作戦?」
「いつまでも俺たちが土の中にいると思ったら大間違いだ。俺たちはこの街を破壊する」
冗談を言っている様子はなかった。
「破壊してどうす――」
「母さんを助けるんだ。俺たちを育ててくれたあの人を。あの人は巻き込まれただけだ。裏切り者の大門の妻というだけで、あれだけひどい目にあって――。俺たちだってそうさ。復習だよ。俺たちにはそれをしていい権利がある」
正しさはどこにある。
「さあ、シータ。一緒に戦うんだ」
狂っているのはだれなんだ。
そんなことを考える。
この街は狂っている。
そのことはもうすでに分かっていた。
そんな街を壊そうとする――それはどうなんだ。
正しいのか?
彼がしようとしていることは――。
「その先に希望は」
「希望なんてどこにもないんだ、シータ」
「どこにも――」
ハジメの目は濁っていた。
もうなにも望んではいない。
希望を求めてはいない。
確信してしまったことがある。
この街が狂っているのならやはり、この街にいる以上は、狂っていないわけがないと。
つまりおれも、どこかがおかしくなってしまっているのだろう。
この街にいる限りは――――――。




