4 受け取ったもの
自分たちにとって何が正しいのかを知る方法はない。
自分たちが正しいと断言できることはまずありえない。
子供の知識は親によるものがほとんどだ。
しかしこの街は違う。
この街の子供たちは、親よりも映像や音による洗脳のような教育により知識を得る。
おれもそのひとりだ。
「おかしいだろ! みんなどうしたんだよ!」
ひとりの生徒が、声を荒げている。
全員がうまく洗脳できるわけではないということだ。
中にはこうして、その異常性に抵抗するものが現れる。
「死を恐れるな」
おれはそいつを横目で追って、教壇にいる男に掴みかかる様子を眺めていた。
ああ、そうなってしまえば、もうだめだ。
この街に必要なのは、そういう人間じゃない。
この街が必要としているのは、機械のように動く、人間のようなものだけだ。
感情を持ったものはいらない。
「残念だよ」
男は腰から抜いたナイフで、躊躇もなく生徒を刺した。
おれはその様子をやはり目で追って、他の生徒たちと同じように呟く。
「死を恐れるな――」
たしかにおれの中には、洗脳のままに動こうとしている自分がいる。
しかし、おれにはもうひとつあった。
『外の世界への希望を忘れなさい』
外の希望があると、そんなことを考えていては、この洗脳はうまくいかない。
反抗する意識を、今は忘れなくては。
男はゆっくりと足を進め、ひとりひとりの表情を伺っているようだ。
なにか妙だと思えば、血の付いたままのナイフで、刺してしまうのだろう。
ここで処理してしまったとしても、まだまだ次々と子供はでてくる。
そもそもこの街では、人が多くて困ることはあっても、少なくて困ることはない。
「大門」
おれの番だ。
「反逆者の息子――」
その男はナイフを振り上げ、肩に向けて振り下ろす――覚悟はできている。
死を恐れるな、だ。
ここで声をあげてはならない。まだだ。
「死を、恐れるな」
激痛に耐え、声を上げる。
満足そうに男は笑ってナイフを振った。
血が机に飛ぶ。
痛みはしばらく収まりそうにないが、いまは耐えるしかない。
一通り見て回った男は、教室の扉を開き、外に出るように促す。
第一関門突破だ。
次は、あの奇怪なものに乗り込み、パイロットになれるかどうかの試験のはず――。
そんなこと、ついさっきまで知らなかったはずなのに。
『忘れるのよ』
母の声を思い出す。
子守唄の代わりに、これからおれに起きることを淡々と話し続けた彼女の声だ。
列を組んで歩いていく。
なんとか全ての課題を突破しなくては。そして――
「そして――」
おれは言葉を失った。
そして、おれはどうなるんだ。
外の世界に希望をもってはいけない。
ならば、希望があるのはここなのか?
こんな何もかもが狂ってしまっているような街が。
「大門! 助けて! 大門!」
服が破れてしまって肌が晒されている――三崎の姿を目にする。
希望はここにあるのか?
「大門!」
このまま従って、その先に何があるんだ母さん。
彼女を追って、半裸の男が走ってくる。
この街は狂っている。
歪んでいる。
「三崎――」
絶え間なく増え続ける子供――。
機械のように量産されていた意味を、おれは知らなかった。
ここでおれがこの列を飛び出せば、母がしてくれたことを全て無駄にしてしまうことになる。
三崎を見捨てるのか?
別に死ぬわけではない。
ただ彼女も、この街の一つの機械になるのだ。
おれはどうなんだ。
どこで動き出す?
母はなんのためにおれに知識をくれたんだ。
『息子が言っていたのよ。希望なんかどこにもないって。どういう意味だと思う?』
おれは列から飛び出していた。




