1 楽園
A750年、魔導期遺跡の発見。
人間が生まれるよりずっとずっと昔、人間がいるはずもない時代の遺跡を発見した。
中には、いまの技術でも再現できないものがあまりにも多すぎたのだという。
『まるで魔法でも使っていたようだ』とのある学者の発言から、およそ1万7千年前のその時代を、魔導期と呼ぶことになった。
いまの人間の知識では到底たどり着きもしなかった多くの現象。
これより後、この発見により多くの人間が救われることになる。
A762年、氷河期宣言。
魔導期遺跡の記録により、氷河期周期がはっきりとわかっていた。
すでに残りわずかとなっていた人類は、地下に生活を移した。
たった数百人だった人類も、今は随分と数が増えたようだ。
少しずつ街を広げているため、いまのところはどれだけ人数が増えても問題なさそうである。
この街では子供と大人の区域が完全に分かれていて、つまり子供側にたっているおれには、まだこの街の知らないことが多い。
3歳までは産みの親と共に生活できるが、そのころの記憶ははっきりとない。
3歳までのことなんて、だれも覚えていないだろう。
16歳になると、子供から大人の区域に移動になる。
もうすぐ4月1日。おれたちはもうすぐ16歳だ――。
朝7時になると、この街ではサイレンがなる。
布団を被って耳を塞いでも、その音はなかなかに耐えがたいものだ。
5分ほど待っていれば止まる。
起きたとしてもサイレンが止まるわけじゃない。
それがこのサイレンの一番困るところだった。
耳を塞いで5分耐えた後には、もう一度眠ろうという気は起きない。
頭がズキズキと痛んで、眠るに眠れないのだ。
「ああ、止まった」
布団から這い出て、配布箱から服を取り出す。
ぽいぽいと適当に脱いで箱に投げ込み、アクビをしつつも着替えを終える。
箱を抱えて狭い部屋から外に出ると、同じタイミングで、他の部屋からも次々と人が顔をのぞかせた。
「よーっす」
適当に挨拶をして――だれも答えてはくれないが――箱を抱えたまま歩いていく。
みんな同じように箱を抱えて、同じ場所に向かっていた。
と、そこで見知った顔を見つける。
待ってくれていたようだ。
「よっす」
「ん、おはよ。あいかわらず眠そうね」
「ひどい起こされ方をすれば、眠ったことも忘れてしまうこともあるさ」
「サイレンより前に起きればいいのに」
彼女は笑って歩き出した。
「今日の仕事って何?」
「自分の仕事の予定くらい自分で管理してよ、もう」
彼女は自分の箱を俺の箱の上に乗せて――少しは遠慮くらいしてもいいと思うが、気にもとめず胸ポケットからメモを取り出した。
「空の掃除ね」
「うぇっ……おれ高いの嫌いなんだけど」
空を見上げる。
数十メートル上にある空は、少し汚れてしまっているようだ。
どこから入ったのか、蜘蛛の巣も見えた。
「お昼になったら、第二食堂ね」
「おれは今日和食の気分だ」
「じゃあ、第一ね」
別にそれぞれが食べればいいのに、彼女はいつも二人で食べることにこだわっていた。
「じゃ、昼飯で会おう。気をつけて行けよ、三崎」
「うん。大門こそ、落ちないように気をつけなよ。すぐ怪我するんだから」
わかってる、と適当に手を振って男性洗濯場に向かう。
空を見上げて、これからやることに不安を覚えつつ、のんびりと足を進めた。
次回投稿は5月10日21時の予定です




