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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
3章 名前を呼んでほしい
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15 諦め

 自分がだれなのかを考える必要はない。

 エイジは走っていた。

 持ち出した毒瓶を飲み込む覚悟はできているつもりのようだ。

 あとはガラス人間を探して捕獲すればいい、と空を飛ぶ巣を探しつつ走る。 


 基地をでて少し――放置したままだったものを見つける。

 しばらく降らない雪のおかげか、それはほぼ形を変えないまま残っていた。

 頭部は残されていないが、結晶のついた腕は残されている。


「……」


 ガラス人間が何を食べれば進化をするのか――エイジはそのことを考えていた。

 ヒビキの研究した資料に目を通す時間はなかったが、おおよその目安は付いている。

 ガラス人間は結晶を必要としている。

 わざわざ木片に結晶を移すのも、それを食べるため。

 菌のように繁殖させれば、それだけ腹も膨れるだろう。


 しかし、他のガラス人間を食べようとはしない。

 争いを嫌うわけではないのに、何故なのか。

 エイジはそこまで考えて、しかしいまそこは必要のないことだと首を振る。

 いま必要なのは、結晶を摂取すれば、体の結晶の侵食具合が大幅に広がるというところだ。

 そして、あの羽を手に入れていたガラス人間は、身体中に結晶を纏っていた。


「どうせいつか死ぬ。ずっと言ってきたことじゃないか」


 屍を拾い上げて、巣を探す。

 それほど苦も無く、目の前に浮かぶ異様なもの――見つけてしまったからには、やはりもう覚悟を決めなくてはいけない頃合いだった。

 瓶の蓋を開ける。

 この時代のことを振り返っていた。


 始まりは何だったのだろう――。


 いろんな人間と出会ってきた。

 もうこれまでのことを思い出すこともないのだろう。

 もう、自分のことを思い出すこともない。

 思い出す必要もない。

 自分を捨てるのだと、エイジは空を見た。


「……」


 思い出す必要もないと――そんなことを思っておきながら、彼の脳裏にはかつての幸せな光景が浮かんでいた。

 それが本当に自分のものなのかはわからない。

 自分には二つの記憶がある。

 どちらが自分なのかがわからない。


 考えるな、とエイジは首を振った。

 もう終わった話だと、もう捨てる話だと、自分を納得させる。

 何度でも、何度でも――。


「待って」


 二人の人影が立ちはだかった。


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