15 諦め
自分がだれなのかを考える必要はない。
エイジは走っていた。
持ち出した毒瓶を飲み込む覚悟はできているつもりのようだ。
あとはガラス人間を探して捕獲すればいい、と空を飛ぶ巣を探しつつ走る。
基地をでて少し――放置したままだったものを見つける。
しばらく降らない雪のおかげか、それはほぼ形を変えないまま残っていた。
頭部は残されていないが、結晶のついた腕は残されている。
「……」
ガラス人間が何を食べれば進化をするのか――エイジはそのことを考えていた。
ヒビキの研究した資料に目を通す時間はなかったが、おおよその目安は付いている。
ガラス人間は結晶を必要としている。
わざわざ木片に結晶を移すのも、それを食べるため。
菌のように繁殖させれば、それだけ腹も膨れるだろう。
しかし、他のガラス人間を食べようとはしない。
争いを嫌うわけではないのに、何故なのか。
エイジはそこまで考えて、しかしいまそこは必要のないことだと首を振る。
いま必要なのは、結晶を摂取すれば、体の結晶の侵食具合が大幅に広がるというところだ。
そして、あの羽を手に入れていたガラス人間は、身体中に結晶を纏っていた。
「どうせいつか死ぬ。ずっと言ってきたことじゃないか」
屍を拾い上げて、巣を探す。
それほど苦も無く、目の前に浮かぶ異様なもの――見つけてしまったからには、やはりもう覚悟を決めなくてはいけない頃合いだった。
瓶の蓋を開ける。
この時代のことを振り返っていた。
始まりは何だったのだろう――。
いろんな人間と出会ってきた。
もうこれまでのことを思い出すこともないのだろう。
もう、自分のことを思い出すこともない。
思い出す必要もない。
自分を捨てるのだと、エイジは空を見た。
「……」
思い出す必要もないと――そんなことを思っておきながら、彼の脳裏にはかつての幸せな光景が浮かんでいた。
それが本当に自分のものなのかはわからない。
自分には二つの記憶がある。
どちらが自分なのかがわからない。
考えるな、とエイジは首を振った。
もう終わった話だと、もう捨てる話だと、自分を納得させる。
何度でも、何度でも――。
「待って」
二人の人影が立ちはだかった。




