13 記憶の海の果て
気づけば、瑛士は雪の上に倒れていた。
揺れる視界の奥に、白銀の何かを捉える。
「さあ、食べなさい」
そいつが話しているのかどうかはわからない。
「か……」
まだ幼い少年の姿に、見覚えがある。
服の胸のあたりは、血で滲んで汚れてしまっている。
赤いはずの血液には水色の液体が混じり、
「さあ」
白銀の何かに頭を捕まれ、抵抗することもできず、その時を待っていた。
「か」
口を開けて、少年は待っている。
おれは、俺は、待っている――。
貪るように、目に入ったものを口に入れていた。
目に入るものは全て、食べ物だった。
そして次第に、食べることに飽き、狩りを楽しむようになった。
もうその頃には、記憶がどこかに行ってしまっていたのだろう。
自分の中に入ってくる何かに抗って、そうして、自分を見失っていたのかもしれない。
「大丈夫?」
「……」
そう声をかけてきたのは、彼女が初めてだっただろう。
何年も人間に出会わなかったから、それが何なのか理解できなかったことを、エイジははっきりと覚えていた。
「私はミドウ。君の名前は?」
「…………エイジ」
自分にあった名前は、それだけだった。




