12 記憶の海5
だれかのすすり泣く声が聞こえた。
手のひらに感じるひんやりとした感覚――瑛士は目を開けた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何度も同じ言葉を紡ぐ――それは、奈々嘉だった。
ボロ付いた洋室のベッドに横たわる瑛士の手を握って、奈々嘉はひたすらに泣いていた。
首筋にある傷から流れる血――それは赤ではなく、水色の混じった濁りのある色だった。
皮膚は青白く、ひと目に見てもその異常さはわかってしまうほどだった。
「奈々嘉」
瑛士は握られている手を強く握り返した。
やはり、奈々嘉の手はひんやりと冷え切ってしまっていた。
瑛士はなんとなくその意味が分かった。
「これが夢じゃないなら……僕は言わなくちゃいけないことがある」
瑛士は奈々嘉の潤んだ目を見つめる。
しかし、瑛士の声は届いておらず、奈々嘉は泣き続けた。
手に力も、入っていないのだろう。
「これからあたし死ぬんだ……死んじゃうんだ……」
首を撫でて、奈々嘉はまた嗚咽を漏らす。
「瑛士くんなんて言うかな。怒るよね。そうだよね」
鼻水をすすって、大きく息を吐く。
「茜ちゃん、ごめんね」
なにかが頰に触れて、奈々嘉は部屋を飛び出していく。
止めることはできない。
もう過ぎたことなのだ。
これから起きることを、瑛士は知っている。
記憶の旅は、もう終わりに向かっている。




