10 記憶の海3
外の空気は暖かい。
見渡す限りの緑は、見ているだけで気持ちが和らいでいく気がした。
頬を撫でる風、腰に回っている腕――その微妙な暖かさが心地よい。
風に流される草の音はどこかこそばゆくも感じた。
「あ、来た。おーい」
ずいぶんと遠くでだれかが手を振っているのが見えた。
瑛士はペダルを踏む力を強めて、その場に急いだ。
「ずいぶん遅かったわね。どうせあんたが寝坊したんでしょ」
赤いリボンをつけた女の子が、呆れ顔で瑛士を見た。
「まあ、こっちもこっちで遅れてここに来たんだけどな」
そして、その女の子の隣には、真面目をそのまま形にしたような男が立っている。
笑って目を細め、瑛士を見ていた。
「茜……要……」
なぜか、その二人の姿を見ると、こみ上げてくるものがあった。
それがいったいどういった感情なのかも分からない。
ただ、知らず知らずのうちに流れてしまっていた涙を見て
「うぇっ気持ち悪い! ちょっとどうしたのよ」
「おいおいなんだよ。どうしたんだよ」
「あ、あー……なんでもないんだ。なんでも」
自転車から奈々嘉が飛び降り、ハンドルが揺れた。
瑛士も自転車からおりるとスタンドを立て停めた。
「なあに? 今日は二人とも変ね? 何かあった?」
「茜ちゃん聞いてよ。瑛士くんってば――――」
女二人は揃って先に歩き始めた。
それを見て道城要が瑛士に近づいてくる。
「お互い大変だな」
「ははっ」
瑛士は自転車のかごから荷物を持ち上げ、彼と並んで歩き始めた。
「どこに行くんだっけ?」
「なんだ? 瑛士、本当に今日大丈夫か?」
要が馬鹿にするように言った。
ゆっくりと道を歩いていく。
既視感を覚えつつ、それがきっと気のせいだと思い込み歩み続ける。
「あそこだよ」
要が指差したのは、丘の上にある洋館だった。
その先に向かうに連れて、瑛士は胸の内になにかが湧き出てくるような錯覚を覚えた。
近づくに連れて少しずつその全容を明らかにする洋館。
その不気味な景観に気にも止めず、彼らは歩み寄っていく――。




