8 記憶の海1
「私たちは家族だよ。国っていう大きな家のね。自分たちの家のことは、やっぱり家族みんなで決めないとね」
そんなのはおかしな話だ。
家族というのは他人同士でなれるものじゃない。
瑛士はそう言い返す。
「両親とあなたの繋がりって『血』だけだよね。それがなかったら他人でしょ? そもそも両親同士だって、もとは他人同士なんだよ?」
「ふむ……」
「他人同士でも家族になれるよね?」
「でも――」
「だよね?」
こう押し切られてしまうのは男としてどうなのだろうかと、彼はいつも思う。
そして、茜はいつものことように、彼に語りかける。
「あたしたちは家族として、助け合って生きていかなくちゃいけないの。人間の命っていうのは、いつもそうやって、繋がって――継って――ずっと続いてきたし、これからもずっと続いていくの」
「でも二十年たてば――」
氷河期が来る。
それは避けられないし、助からない。
人間に、その死の時代を超えることはできないのだ。
「二十年もある――あたしたちはまだ、繋ぐ方法を探しているだけなの」
「無理だよ、そんなの」
彼は知っていた。
どうやっても、人間の技術ではその死の時代を超えることはできないことを。
自然燃料も尽きた時代――これ以上の技術進化を求めることはできないのだ。
「無理じゃないよ。いつかきっと、家族が助けてくれる」
彼女は迷いなく、笑ってそう言った。
「だから、お別れしましょう、瑛士」
「どうして? いいじゃないか、僕たち四人で一緒に暮らせば」
「だめよ。別々に生きなきゃ。いつお別れになるか――死んじゃうかわかんないんだから。ずっと一緒だったら急にお別れになった時に堪えられない。だから、もう会うことはないって覚悟した上で、お別れしましょう。また会った時は、再会を喜びましょう」
「そうか」
瑛士は納得して、頷いた。
「瑛士は奈々嘉を守らなきゃ。妹みたいなものじゃない」
「あいつは、そうか……僕が守らないといけないのか」
「そうよ。あたしの後ろをずっとついてきて、今になっては言ってることまで一緒だけど。それでも、あの子はきっと、弱いままだろうから。あたしには馬鹿兄がいるから大丈夫。心配しないで」
茜はそう言って、手を振った。
「大事にするからね、これ」
「……要に言えよ」
誕生日にプレゼントを渡すのが恥ずかしくて、要に渡してもらったのだ。
瑛士からのものだとは知らないはずだったが。
今にして思えば、彼女は気付いていたのだろう。
「そうだね、じゃ」
それが最後の別れではない。
その後何度も再会している。
ただ、瑛士にはその記憶がずっと根強く残っているのだ。




