6 ドクターD
自分が正義か悪かといえば、間違いなく悪だろう。
一度選んだことを途中でやめてはいけない、それだけを守って生きてきた絶望の時代だった。
『我々は〈アイスエッジ〉という。起きてみれば知らぬ生き物で溢れておる。面白い』
その妙な生物は、白銀の肌を晒して笑った。
『お前には感謝しているぞ――。弱っていた我を救うとは。しかし雄としての器としては足りない』
一人の研究員が、頭を下げている。
「ドクターD。名前は不自然に削除されている。分かるのは服に刺繍された――」
映像を止めて肩のあたりを拡大する。
「苗字の頭文字、Dだけだ。これだけじゃまだわからない。でも、彼が間違いなく始まりの人物――エイジさんに言われて調べなければここまでたどり着かなかった」
ヒビキはキーボードを叩いて、基地に残された情報を探る。
まだわからないことが多すぎた。
「どこかに何かあるはずだ」
頭文字だけを頼りに、ただひたすらに探し続ける。
そして、一つのファイルを発見した。
一人の研究者の個人ファイル。
開いてみると、そこには家族写真が並んでいた。
幸せそうな家族の笑顔が並んでいる。
「マフラー?」
どこかで見たことがあるようなマフラーを身につけた少年。
四人組の子供達が身を寄せ合って写真に収まっている。
「私の子供と友人たち。彼らには未来が必要だ――左から道城要、坂木奈々嘉、灯部茜」
書き込まれたコメントを目で追う。そして
「大門、瑛士――」
ヒビキはその少年の顔をじっと見つめる。
『ヒビキ、ヒビキ、聞こえるか?』
通信が入っていることにしばらく気付かず、そして慌てて答える。
「ヒビキです。何かありましたか?」
『巣と思われるものを発見した』
「了解しました。エイジさん、一度こちらに戻ってきてほしいのですが」
Dで始まる苗字をもつ研究者は何人もいただろう。
ただ、ヒビキはもうこれ以上考えられなかった。
もうそれ以外が、考えられなかった。




