5 違和感
「通信機を貸してくれ、ナナカ」
「はい」
エイジが何度か声をかけると
『ヒビキです。なにかありましたか?』
「巣と思われるものを発見した」
『了解しました。エイジさん、一度こちらに戻って来てほしいんですが』
「そのつもりだったんだが、あれは空を飛んでる。一度見逃したら次見つけるのは――」
『ナナカにまかせてください。今度は大丈夫です。念のために発信機をつけてあるので』
驚いて身体中をぺたぺたと確認するナナカ。
本人は知らされていなかったようである。
『通信機は、1週間ほど充電がもちますから、電源は消すなと言っておいてください』
「消すなってよ」
「本当かな」
機械のことはあまり信用しないらしい。
「ヒビキ、これから必要なのはDの事だ。もう隠さなくていいだろう」
『わかりました。戻って来ましたら伝えます』
「通信を切る。何かあったら俺の方にかけてくれ」
エイジは通信機をナナカに渡すと、カナメの方へ振り返った。
「これから安全なところまで行く。お前にもし仲間がいるなら、少し探すくらいの余裕はあるぞ」
「いえ、大丈夫です。ずっと一人でいたので」
一人で生きてこられた――しかしエイジは不思議だとは思わなかった。
自分だって、一人で生きてこられた。
ミドウたちと出会わなかったとしても、ずっと一人で戦っていただろう。
「よくわからないやつに会ったら逃げる。おれはそうやって生きてきたんです」
足に自信があるようだ。
エッジから走って逃げていたのを見たことを思い出せば、常人の脚力ではないように思える。
「じゃ、あたし行ってくるね」
「ああ、気をつけてな。危ないと思ったら逃げろよ」
「だいじょうぶ。出来る子だからね」
手を振って、ナナカは巣を追いかけて行った。
カナメはじっとその姿を見送って、エイジを見つめる。
「ついていきます」
「後ろは頼んだ」
カナメは強く頷く。
懐かしさがある。
ただその懐かしさが何なのかが、エイジにはわからない。
少しずつ膨らんでいく違和感は、いずれ彼を苦しめるだろう。
「俺は――」
エイジは遠く流れていく巣を睨みつけた。




