1 きれいな芋
長い夢を見ていた気がした。
思い返せば、ベッドというもので寝たのはもう何年も前のことだった。
エイジはゆっくりと体を起こして、じっとこちらを見つめる存在に気づく。
「なんだ」
「蒸す? 焼く?」
なんの話なのか少し考えた後、包丁を握るナナカの姿を見て食事のことを言っているのだと気づいた。
イモの調理について聞いているのだろう。
「……蒸すほうがいい」
「めんどくさいから焼きね」
「じゃあ聞くなよ」
舌を出して笑いながらナナカは部屋を出て行く。
ずいぶん年下に見えるが、彼女は年の差を全く気にしていないようである。
ヒビキとはずいぶん長い間一緒にいたようなので、年上の相手は慣れているということなのかもしれない。
「はやくしないと焦げるぞー」
開けっ放しの扉の先から声がする。
どうやら自分でやれということらしい。
ヒビキがいつもいる資料室は、基地の隅にあったようで、それより先にまだまだ基地は広がっていた。
寝泊りできる場所が十分に用意されていて、それでもいまここにいるのは三人――いや、ガラス人間を入れれば五人になるのだろうか。
彼らを入れたとしても広すぎる空間だった。
「焦げてるのと黒焦げなのとどっちがいい?」
結局調理はしてくれたらしい。
うまくいったのかどうかは別である。
百人は優に入る食堂に、3人がぽつりと座る。
ヒビキとエイジに、にこにこと問いかけた。
エイジがヒビキのほうをちらりと見ると、大きくため息をついた。
好きに選んでいいということなのだろうが、どっちもかわらないということも言っているのだろう。
「はいどうぞ」
「ありがとう。頂くよ」
皿を受け取って、イモなのかどうかも定かではない謎の物質を眺めた。
どこから見ても、食べられるようなものには見えない。
エイジはまたちらりとヒビキの方を見た。
どうやらハズレはヒビキの方だったらしい。
どちらも大した差はないが。
「ずいぶんうまそうなイモだな」
そして、きれいな焼き目のついたイモを咥えて咀嚼しているナナカを見た。
「そう? あたしのも同じくらい焦げてるよ?」
「……どこがだよ」
「エイジさん。無駄ですよ」
バリッと、とてもイモを食べた音とは思えない音を出して、ヒビキはイモを口にした。
一瞬表情を歪めたが慣れたように咀嚼する。
「ずいぶんいい助手だな」
「ええ、全くです」
エイジは輪切りにされたイモを一枚持って、躊躇しつつも口に運んだ。
「……」
「おいしい?」
これをおいしいと思える人間がいれば驚きである。
エイジはバリバリと音を立てて味わった。
「うまいぞ。食べてみるか?」
「そんな黒焦げがおいしいわけないじゃない」
ナナカは笑ってそう言った。
「……本当に、ずいぶんいい助手だな」
「今日から一緒に行動してくださいね。エイジさん」
「……」
なんとも容認しがたいことだった。




