3 暗闇
「にい。交代するよ」
暗闇の中、じっと遠くを眺めていた瑛士に声をかける。
「そうか。何かあったらすぐ起こしていいから。少しでも変だと思ったら――」
「心配しすぎだって。おれだって、にいみたいにできるよ」
「それは護身用に渡したものだ。自分から挑むために渡したんじゃない」
そうして、腰に取り付けてある水色のナイフを指差される。
初めて会ってから一週間ほどだろうか。
もしもの時にと、康介専用に作ってくれたのである。
ガラス人間の存在は、何度聞いてもなかなかわからない話だった。
ただ、危ないものだと、近づいてはいけないものだとわかっただけで十分なのかもしれない。
しかし、渡された水色のナイフ――ガラス人間の纏っているものを、削ったものだ。
結晶を削るには、結晶が必要で、普通の刃物では削ることができないらしい。
「にいのはなんで水色じゃないんだ? いつもそれで削ってるのに」
「知らなくていい」
彼が持っているのは、細長い棒のようなものだった。
鉛色の、若干青みがかかったものだ。
一度もたせてもらったことがあったが、見た目とは大きく異なって、それは康介であっても楽に振り回せるほどに軽いものだった。
「じゃあ、しっかりな」
「うん。まかせて」
瑛士は民家に入っていく。
それを見送って、康介は辺りを見渡した。
光っているものはいない。
少し安心して、のんびり空を見上げた。
めずらしく雲ひとつない。
康介はもう、瑛士にシェルターの手紙を見せた。
それが何を意味していたのかも、自分にだけ教えてもらっている。
「忘れ物じゃなかったんだ」
寒さを凌ぐシェルター。
その中でこの先何年も生きていける権利。
二人分だけだ。
その中に、康介と美海は入れてもらえなかった。
「おれと美海は捨てられたんだ」
両親だけが行った。
もう、康介には行くあてがない。
でも美海と二人だけで生きていくことはできない。
康介は、そのことをすぐに把握した。
星が流れていくのを目で追って、そして手を伸ばした。
なにかを掴もうとしたつもりもない。
ぎゅっと手を握って、それを胸に当てた。
「おにいちゃん」
「ん? どうした?」
振り返ると、そこには、眠たげな目をこすって、フラフラと歩く美海がいた。
なんとなく顔が赤い。
「美海?」
「うぅ……」
すぐ近くまで来たと思うと、ぱたりと、力なく倒れたのだった。