1 忘れ物を届けに
少年は歩いていた。
「おにいちゃん。おんぶ」
手をつないでいた妹に背を向ける。
「ほら」
背伸びして手を伸ばす妹を背負い、彼は歩く。行く当てなんてない。彼はただ、どこかへ行くだけだ。親を探して、ただまっすぐ。
「父さんと母さんは、俺たちを置いていったんじゃない。ちょっと忘れちゃってただけなんだ。だから、おれたちから行ってあげないと。忘れちゃってるんだから」
「うん」
数日前、家に封筒が届いた。
まだ読める漢字の少ない少年には、それがいったいどこから来たものなのかもわからないが、両親がそれを広げた途端に喜んで抱き合っていたことを思えば、きっといいものだったのだろう。
「しぇるたーってところに、父さんと母さんは行ったんだ。そこはすごくいいところなんだよ。おれたちも行って、家族みんなで一緒にいるんだ。それが一番なんだ」
手紙の中にあった2という数字がいったいなにを意味していたのか、彼にはわからない。
例え、彼がその場所にたどり着いたとしても、中に入れてもらうことはできないのだ。
「おにいちゃん」
「ん?」
「あれ」
妹の指先を追って、そして遠くに、だれかが歩いているのが見えた。
だれかをおぶって歩いている。
「いってみよう」
「うん!」
妹は背中から飛び降り、二人で走っていく。
「おーい!」
何度か呼びかけても、その人は振り向いてはくれなかった。
ついに追いついて、顔を覗き込む。
「ひっ」
なにも見ていないようだった。
どこかに向けて、足を動かしている。
背負っているのは、人だった。
腕はだらりとぶら下がり、何かが垂れ落ちている。
「なにをおんぶしてるの?」
妹は恐れもなく、その人に問いかける。
そうしてやっと、なにも見ていなかった、死んでいるような目がこちらを向いた。
「なんでうごかないの?」
カランと、乾いた音がなった。
その人の首には、なにかの首飾りがぶら下がっている。
「わたしはみみっていうの。おにいちゃんのなまえはこうすけ」
「僕は――――」
言葉を止めたと思うと、背負っていたなにかを下ろして駆け出した。
少し遠くに、なにかが歩いている。
少年、康介が知っているもので考えれば、それは人間に似ている。
それに容赦なく襲いかかり、そして暫くして戻って来た。
服は水色の混じった赤色のなにかで汚れてしまっている。
「どうせ死ぬ。そのときはこいつの隣がいい」
動かないそれをまた背負いあげて、その人は言った。
3月29日の投稿はお休みします




