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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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14 これからのことを――

 

「私にはここの外で生きることはできません。見ての通り、足がもううまく動かないのです。そこで、食料を外へ取りに行かなければならない時には、私の助手が行っています。今も外で行動しているでしょう」

「そうか。それで?」

「ええ、それでなんですが。助手には食料探しとは別に、もうひとつ頼んでいることがあるのです。それを手伝っていただきたい。助手だけではどうもうまくいかないようで」

「詳しく言え。あいつらが世話になるんだ。そのくらいいいだろう」


 現状この世の中をかなり詳しくしっているはずの人間が調べていることだ。

 エイジにとっても、為になることであろうことは予想出来た。


「例のアレの母体の捜索です」

「母体? あれは一から作られた生物兵器じゃないのか?」

「違います。誰もいなくなった施設の資料を全て調べたのですが、あれは人が作ったものではなかったのです。いえ、厳密には、母体は人間によって作られたものなのですが」 


 例のあれは、蜂のようなものだ。

 とすれば、その母体――母というものは。


「つまり、あなたには女王蜂を捕獲してほしいのです」


 例のアレの上に、まだ何かがいたこと自体に驚きだが。

 確かに、蜂がいて、女王蜂がいないというのはなにか引っかかることでもある。

 それにそもそも、エイジが持つ資料には、全ての始まりは逃げ出したものは一匹のみのはず。

 エイジはすでに三回戦闘している。

 どこかで増えていると考えるのが妥当だ。

 つまり女王蜂の存在が、逃げ出した一匹より先に外にいたということになる。


「今後、例のアレの名称をエッジ。母体をマザーとさせてもらいます。あなたにはマザーを捕獲し、私の元に届けていただきたい。マザーの持つ毒の原液があれば、それを調べることができれば――エッジによって結晶化が始まり、ガラス人間になってしまう前の人間を、助けることができるかもしれない。そして――」

「例のアレ、つまりはエッジの繁殖はこれ以上進まないわけだ」

「ええ。そこでまずは、外にいる助手と合流していただきたい。一週間ほど連絡が途絶えていまして、いまどこにいるのかさっぱりですが」

「死んでいる可能性は」

「ありません。あなたが生きているように」


 納得できなくもない話だ。

 戦う手段さえ知っていれば、生きていくことは簡単なのである。


「じゃあ、俺はワタリとともに仲間を連れてくる。その後でも構わないか?」

「ええ。頼みます」


 もう一度あの家に戻るとなると、少し抵抗があるが。

 ワタリだけをいかせるわけにはいかないだろう。

 屋内にいるであろうミドウたちは、火を付けない限り危険はないだろうが。


「終わったのか?」


 部屋の外にワタリが待っていた。


「ワタリ、俺だけで行ってきてもいいんだぞ」

「いんや、俺もいくさ。ほら、いこうぜ」


 エイジは、ワタリの予想通りの返事に思わず笑みをこぼした。

 やはりその表情はだれにも見られることはない。

 エイジは勇ましく歩くワタリに続いて、元の道を歩き始めた。


「なあ、エイジ」

「なんだ」

「紫のあいつなんだが」


 ミドウたちを犠牲にする話を聞かれていたのかもしれないと思い警戒したが、どうやらそうではなかったらしい。

 扉を破壊して、そして風のように去っていたあの存在だ。

 カンシャスル――ヒビキの話を聞いた後の今となってみれば、その言葉までの過程が想像できなくもない。

 毒だと言って、エッジの毒を与えたわけじゃないだろう。

 ヒビキは近くから、安全な場所だと連れてきて――あとは、彼のいいなりである。

 ミドウやエイジがいたあの村の人たちのことを思い出せば、その状況は容易に想像できた。


「言葉が話せていたことを思うと、俺たちは争わなくていい日が来るのかもしれないな」

「……そうか」


 ヒビキがガラス人間を、意思疎通のできる何かに進化させたとすれば、この世界は確かにいつか平和になるのかもしれない。


「じゃあ、まだ死ねないな。これからだ」


 この先数年のことを思う――。


 そしてエイジは、気づいた。

 ワタリがそのことに気づいていたのかはわからない。

 ただ、ワタリのその柔らかな表情は、もう何もかもを察しているようにも思えた。


 そして、ワタリの目線を追う。

 遠くに、人影が見えた。


 ワタリはその人影に満面の笑みで手を振った――。

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