12 変異
見たことのない生物だったが、エイジにはそれがなになのかをじっくり観察する余裕があった。
見た目は人間とは離れている――というよりは、人間から何かに成長した――進化したという方が正しいのかもしれない。
「お前」
「なんです?」
「名前は」
「ヒビキです」
「ヒビキ。あの部屋、ガラス人間がいた――いや、例のアレに刺された人間がいた部屋だ。あの場所にいたあいつらはなんなんだ」
「……私が個人的に、近くにいたあいつらを捕まえてきました」
どうやって捕まえたかまでは聞く余裕はないが。
「あれが何なのか、お前にはわかるのか?」
「いや、初めて見ましたが。あれは、あなたの言うガラス人間が、進化したものだと判断していいでしょう」
エイジのもつ資料には、ガラス人間が最終的にどうなるかまでは記されていなかった。
実際、エイジは様々なガラス人間と戦ってきたが、思い返せば、全身が結晶に纏われているものを見たことは、いままでの一度もなかったように思う。
「全身が結晶に纏われた結果か?」
「いや、違います。いまは詳しく話せませんが。まずはこいつをどうにかしましょう」
改めてその紫のガラス人間を見る。いままでのガラス人間と違うところは
「こいつは鳴かないのか」
「あの声聞いているだけで頭がおかしくなりそうだからな。いいことだ」
いいからはやく行けと、ワタリは促してくるが。
「追い出す方法はあります」
ヒビキは、スピーカーのようなものを取り出して言った。
「ここに入ってこれたということは、このことはすでに理解しているのかもしれませんが。ガラス人間に武器を用いず抵抗する手段はいまのところ一つ。例のアレの羽音です」
そして、ヒビキは耳に嫌に張り付く奇怪な音を再生した。
「――――――――」
「ふむ。効きませんね」
「効いていないというよりは、聞いてないというところか」
観察する。
動こうともしない。
「カ……」
「エイジ。はやくなんとかしろよ」
「待て」
扉を壊して入ってきたにしては、やけにおとなしい。
まるで敵意がないようである。
「カンシャスル」
「話した……?」
これまでのガラス人間とはわけが違う。
「ワタシハコレデシナナイ。カンシャスル」
そいつはヒビキの姿をじっと睨むように見つめ、そしてその場を去った。