11 紫
「もういい、この話はここまでだ」
エイジは軽く目を瞑って息を吐いた。
それが、彼なりの切り替えだった。
「お前がここにいるということは、そして生きているということは、ここは安全だ、ということで間違いないんだな」
「……まあ少なくとも外よりは安全だ。保証する」
「食料は」
「できるだけ外に取りにいっている。賞味期限が切れた食料ならまだ山程あるが、できるだけ食べないようにしていた。尽きてしまっては意味がない」
エイジはまたもう一度息を吐いた。
「ワタリ」
「ああ」
エイジと入れ替わるようにして、ワタリが男の隣に腰掛けた。
「どうしてここに来たのか、という話に戻りたいが」
「……」
「ふう。まあ、簡単に言うとだ、俺の仲間達が住む場所がない。ここに住ませてほしい。それだけの話なんだが」
男は少し考えるようなそぶりをみせたあと、ゆっくりと頷いた。
「ありがたい。すぐに仲間を呼んでくるとしよう」
「待て、ワタリ」
「ん? 急がないと、外は安全じゃないんだぞ」
「ここも、安全とは言えないだろう」
何かが扉にぶつかり、ドンドンと音を立てている。
「知り合いか?」
ワタリは扉から離れて武器を構える。
「私の知り合いにこんな乱暴な人はいません」
「なるほど」
ワタリはエイジに目配せする。
どうやらお前がやれと言っているようだが。
「知ってるか、ワタリ」
「なんだよ」
バキバキと音を立てて扉が破壊された。
その醜い姿に、ワタリが声にならない悲鳴をあげる。
「ガラス人間は、うっすらと光るんだ。青色にな」
「……俺には紫に見えるぞ」
人型のようなその生物は、背中から羽のような結晶を広げている。
ぼんやりと紫に光る体は、ミシミシと妙な音を立てて蠢いた。