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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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8 未知の扉

 慣れたように化け物に対処する姿は、近くで見たことがなかったワタリにとって驚異にさえ写った。

 ただ適当に鉄板をつなぎ合わせたもので身を包んだ体では、自由に動くこともできず、ばたばたと足踏みしているうちに、エイジは敵を処理していく。


「ああ、もうっ!」


 化け物を全て無力化したところで、ワタリは身につけていたものを放り投げた。


「なぜ脱ぐ? 身につけておいたほうが安全だろ」

「俺だって男だ! 戦えるんだよ! なにより、お前にだけ手柄をやるのが耐えられないんだ!」


 エイジはわけもわからないと首を振ったが、ワタリは身につけたものをもう一度身につけることなく、その場に放置して歩き出すのだった。

 捨てられたものを一瞥して、エイジも後を追う。


「お前は行ったことがあるのか?」

「は?」


 ワタリからの急な問いかけに、エイジは素っ頓狂な声を上げた。

 しかし、すぐにその意味が分かり


「ない」


 ときっぱり答えた。すると今度はワタリが


「は?」


 と気の抜けた返事をする。


「……まさか、場所も知らないってことはないだろうな」

「まさか。あっちだよ」


 エイジは指を指すが、その先をみる限りなにも見当たらない。


「本当に合ってるんだろうな?」

「なにを疑う? 兵士たちがいるのはいつもあっちだった」

「そうか」


 と言って、ワタリは考えるようにしながら歩く。しかし暫くして


「それ場所はしらないってことだろ! おい、なんとか言いやがれ!」

「……そうなるのか?」

「そうなるさ!」

「……しかし、俺たちが今向かっている基地は、本格的なものではなくて研究施設のようなものだぞ。公にも基地とは言われていないし。あっちにあるということを知っているだけでも十分だと思うが。実際、ミドウも場所はしらなかったと思うぞ」

「ああそうかなるほどね。あっちなのね。いけばいいのね」


 ため息混じりにそう言うワタリは、もういいと首を振った。

 エイジも訳が分からないと言った様子で首を振る。

 よくもわからない光景だった。


 結局しばらくの間、無言で歩き続ける。

 エイジはみたことのある光景を目をこすりながら眺めていた。

 昔とはそれほどかわっていないような光景だが、実際はあまりにもかわりすぎている。

 仲間たちと四人で遊んでいた光景が目に浮かぶ――。

 目をつぶっているだけなのに、肌が痺れるほどの寒さも和らいでいく気がした。



 ――――――。



「っ!」

「ん? 何か言ったか?」

「羽音だ!」


 エイジは周りを見渡した。

 見渡す限りではその羽音の犯人はいないようだが――エイジはまっすぐ走り出した。

 ワタリも慌てて走り出し、エイジの後を追う。


「おい、隠れなくていいのかよ!」

「このまま基地まで走りきる! もう近くまできているんだ。もし戦闘になれば勝ち目はない。あいつに抵抗できる武器が今はないんだ」

「じゃあ余計隠れたほうがいいんじゃないのかよ!」

「あいつは熱に敏感だ。隠れたところですぐに見つかって終わりだよ」

「それは初耳だ。じゃあ急がないとなあ!」


 遅れ気味に走っていたワタリは、エイジと並ぶように力を入れた。

 二人が並んで走っていく。

 しかしその先には雪ばかりで、基地らしきものはどこにも見当たらなかった。


「おいエイジ! 基地ないじゃねえか!」

「そんなはずはない! 絶対にあるはずだ!」

「そんなこと言っても――」



 ――――――――。



「おい! 今の!」

「分かってる! いいから探せ!」


 エイジは声を荒げて言うが、彼もまだ見つけられずにいた。

 必死に目を動かして走り続ける。

 しかし、やはり何も見つからない。

 どこを見ても建物すら見つけられない。


「なにもないじゃないか! エイジ!」


 ついにワタリが足を止めてしまい、エイジも焦りからか同じように走ることを止めた。


「なにもないはずがないんだ! 絶対にあるはずなんだよ!」

「でも、建物がないんだぞ! このまま走っても、山にぶつかるだけだ! 山に建物があるなら、もう既に見えるんだよ!」


 ワタリの言う通りだった。エイジは必死に考える。



 ――――――――――――――――。



「おい! なんとか言え!」

「待て! 今考えてるんだ!」



 ――――――――――――――――。



「……あった。あったぞ!」

「あった? どこに!?」

「手伝え!」


 エイジは何を思ったのか、素手で雪を掘り始める。


「なんでこんなときに雪遊びなんか」

「いいから手伝え!」

「……わかったよ!」



 ――――――――――――――――――――――――――――――――。



「近づいてきている」

「おいおいまさか……」


 ワタリはそこでなにかに気づいたように、雪を掘る手に力を入れた。

 その雪はやけに柔らかく、簡単に掘りだすことができる。

 掘るたびに羽音が近づいてくることは、もう恐怖に感じなかった。


「なんでこんなものが……」


 その先にあったのは、頭がおかしくなりそうな羽音をひたすらに鳴らし続けるスピーカーだった。

 そしてすぐ真下に、マンホールのような蓋がある。


「ここだ」


 指先から伝わる冷たさは、どこかに吹き飛んでいた。

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