8 未知の扉
慣れたように化け物に対処する姿は、近くで見たことがなかったワタリにとって驚異にさえ写った。
ただ適当に鉄板をつなぎ合わせたもので身を包んだ体では、自由に動くこともできず、ばたばたと足踏みしているうちに、エイジは敵を処理していく。
「ああ、もうっ!」
化け物を全て無力化したところで、ワタリは身につけていたものを放り投げた。
「なぜ脱ぐ? 身につけておいたほうが安全だろ」
「俺だって男だ! 戦えるんだよ! なにより、お前にだけ手柄をやるのが耐えられないんだ!」
エイジはわけもわからないと首を振ったが、ワタリは身につけたものをもう一度身につけることなく、その場に放置して歩き出すのだった。
捨てられたものを一瞥して、エイジも後を追う。
「お前は行ったことがあるのか?」
「は?」
ワタリからの急な問いかけに、エイジは素っ頓狂な声を上げた。
しかし、すぐにその意味が分かり
「ない」
ときっぱり答えた。すると今度はワタリが
「は?」
と気の抜けた返事をする。
「……まさか、場所も知らないってことはないだろうな」
「まさか。あっちだよ」
エイジは指を指すが、その先をみる限りなにも見当たらない。
「本当に合ってるんだろうな?」
「なにを疑う? 兵士たちがいるのはいつもあっちだった」
「そうか」
と言って、ワタリは考えるようにしながら歩く。しかし暫くして
「それ場所はしらないってことだろ! おい、なんとか言いやがれ!」
「……そうなるのか?」
「そうなるさ!」
「……しかし、俺たちが今向かっている基地は、本格的なものではなくて研究施設のようなものだぞ。公にも基地とは言われていないし。あっちにあるということを知っているだけでも十分だと思うが。実際、ミドウも場所はしらなかったと思うぞ」
「ああそうかなるほどね。あっちなのね。いけばいいのね」
ため息混じりにそう言うワタリは、もういいと首を振った。
エイジも訳が分からないと言った様子で首を振る。
よくもわからない光景だった。
結局しばらくの間、無言で歩き続ける。
エイジはみたことのある光景を目をこすりながら眺めていた。
昔とはそれほどかわっていないような光景だが、実際はあまりにもかわりすぎている。
仲間たちと四人で遊んでいた光景が目に浮かぶ――。
目をつぶっているだけなのに、肌が痺れるほどの寒さも和らいでいく気がした。
――――――。
「っ!」
「ん? 何か言ったか?」
「羽音だ!」
エイジは周りを見渡した。
見渡す限りではその羽音の犯人はいないようだが――エイジはまっすぐ走り出した。
ワタリも慌てて走り出し、エイジの後を追う。
「おい、隠れなくていいのかよ!」
「このまま基地まで走りきる! もう近くまできているんだ。もし戦闘になれば勝ち目はない。あいつに抵抗できる武器が今はないんだ」
「じゃあ余計隠れたほうがいいんじゃないのかよ!」
「あいつは熱に敏感だ。隠れたところですぐに見つかって終わりだよ」
「それは初耳だ。じゃあ急がないとなあ!」
遅れ気味に走っていたワタリは、エイジと並ぶように力を入れた。
二人が並んで走っていく。
しかしその先には雪ばかりで、基地らしきものはどこにも見当たらなかった。
「おいエイジ! 基地ないじゃねえか!」
「そんなはずはない! 絶対にあるはずだ!」
「そんなこと言っても――」
――――――――。
「おい! 今の!」
「分かってる! いいから探せ!」
エイジは声を荒げて言うが、彼もまだ見つけられずにいた。
必死に目を動かして走り続ける。
しかし、やはり何も見つからない。
どこを見ても建物すら見つけられない。
「なにもないじゃないか! エイジ!」
ついにワタリが足を止めてしまい、エイジも焦りからか同じように走ることを止めた。
「なにもないはずがないんだ! 絶対にあるはずなんだよ!」
「でも、建物がないんだぞ! このまま走っても、山にぶつかるだけだ! 山に建物があるなら、もう既に見えるんだよ!」
ワタリの言う通りだった。エイジは必死に考える。
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「おい! なんとか言え!」
「待て! 今考えてるんだ!」
――――――――――――――――。
「……あった。あったぞ!」
「あった? どこに!?」
「手伝え!」
エイジは何を思ったのか、素手で雪を掘り始める。
「なんでこんなときに雪遊びなんか」
「いいから手伝え!」
「……わかったよ!」
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「近づいてきている」
「おいおいまさか……」
ワタリはそこでなにかに気づいたように、雪を掘る手に力を入れた。
その雪はやけに柔らかく、簡単に掘りだすことができる。
掘るたびに羽音が近づいてくることは、もう恐怖に感じなかった。
「なんでこんなものが……」
その先にあったのは、頭がおかしくなりそうな羽音をひたすらに鳴らし続けるスピーカーだった。
そしてすぐ真下に、マンホールのような蓋がある。
「ここだ」
指先から伝わる冷たさは、どこかに吹き飛んでいた。




