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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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7 雪道

 何も言わず去っていく。

 エイジは一人で軍基地に向かうのだった。

 その先に本当に何かがあるのかはわからない。

 しかし、エイジはひとつ気になっていたことがあったのだ。


 造花――。


 灯部茜と、道場要の墓に置いたもの。

 それがまだ残っているということは、どう考えてもおかしいからだった。

 十五年もたっているのに、まるであれから数日もたっていないかのように手入れされていたことが。


「もし人がいるとするなら、ここからそう離れているとは考えられない。きっと近くに安全な場所があるのだろう」


 それはあくまで予測であり、希望的観測でもあるのだけれど、エイジはその可能性を〈なし〉とは考えなかった。

 安全な場所、と考えたのは、化け物と戦う方法を知っているのが、自分だけだと知っていたからだった。

 戦うことなく生きているとするのなら、それは安全な場所があると考えるのが普通である。

 その場所を見つける。

 そう考えて、しばらくして自分らしくない考えであることに気付く。

 いまさら誰かの為になることをするなんて――自分には安全な場所なんて必要ないのだから、見つけなくたっていいはずなのに。

 ミドウの後ろ姿が目に浮かぶ。

 もう関係ないと割り切っていたはずだが、まだ気にかかっていたようだ。

 エイジは一度足を止めたが、またすぐに歩き出した。


「おい」


 歩き出して数歩。

 背後から声をかけたのは、意外にも彼に殴りかかろうとした――ワタリという青年だった。

 エイジは彼の姿を見て、すぐにその意味が分からず固まってしまう。

 ミドウが泣かされたことが気になりやり返しにきたのかとも考えたが、彼の身なりを見てそれはないと判断した。

 彼の装備はやりすぎなほどに厳重で、それは結晶人間と差がないほどに体積が大きくなってしまっている。


「なにしてる」

「それはこっちのセリフだ」


 ワタリは口をひん曲げてエイジを見たが、すぐに


「俺は今から軍基地に行く。安全を確認してくるつもりだ。お前もそうなんだろう?」

「……」


 なんと答えたらいいのか分からずエイジは黙っていると、ワタリは肯定と判断したのか彼の肩を叩いて揚々と歩いていく。

 エイジはそれを無視してしまっても良かったのだが、仕方なく彼についていくことにした。

 彼が死んでしまえば、間違いなくミドウたちは生き残れないだろうからだ。


「言っておくが、俺はお前のことが嫌いだ。エイジ」

「そうか。構わない」


 言い返してくると思っていたワタリは、予想外の返答に足を躓かせた。


「お前のそういうところが嫌なんだよ!」


 とごまかすように声を上げる。

 余計にみっともない姿になってしまっていることは、自覚できていないだろう。

 エイジはうっすらと笑みを浮かべたが、そのことには二人共気づかない。

 二人が肩を並べて歩くさまは、どうも滑稽なものにしかみえず、ぎこちない関係がそのまま現れているように見えた。


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