5 もう戻れない
ミドウは生き残った人たちを眺め、後悔の波に襲われていた。
あの集落で残っていればまだもう少し多くの人間が生き残れたのではないか、そう思えたからだった。
残ったのは、ミドウ、ワタリ、男が二人に女が一人、子供が一人。
エイジはその場にはおらず、その六人だけが、だれも使っていない民家の軒先で座り込んでいる。
だれも何も声を出さぬまま時間が過ぎ、しばらくして傷だらけのエイジが歩いてきた。
「ざまあねえな」
エイジはその惨状を見てそう言った。
乾いた笑い声をあげる。
「守られるばかりで戦おうとしないからだ。みんなでいれば大丈夫なんて時代じゃあないんだよ。仕方ないさ。これだけ生き残っただけでも十分だ」
「てめぇ……!」
ワタリはエイジの襟首を掴み、彼を睨みつけた。
その目は怒りと悲しみ、悔しさからか襟を掴む手にはかなりの力が篭っている。
「ワタリ、やめて――」
「だめだミドウ。俺はやめない。こいつはわかってたんだ……村を出たらこれだけの被害がでるってわかってたんだ! なのにこいつは――――」
「あのままあの場所にいれば、みんな元気で幸せだったっていうのか?」
ワタリはエイジの言葉に息を詰まらせる。
「ああそうだろうな。みんな同じ場所で同じように死ぬんだ。それはそれは幸せだろうよ」
「――――っ!」
「ワタリ!」
「だが、村からでて、少しでも希望を持って、その希望を繋いで生きていくのとどちらがいい!」
殴りかかっていたワタリの手が止まり、エイジは鋭い眼光を彼に向けたまま話を続ける。
「あのまま村に残ってみんな揃って仲良く餓死か、俺ひとりでは処理できなくなった化け物たちに囲まれて仲良く死ぬのかのどちらかだった。お前はそれが分かっていて、それを吟味した上で俺に口出ししているんだよな? 違うのなら今すぐこの手を離せ」
「…………」
ワタリは膝をつき、拳を何度も地面に叩きつけた。
その度に雪が散り、彼の頬を一筋の涙が伝う。
「生き残ったことがどういうことなのかよく考えろ。お前らが考えるのはそういう『もし』の話じゃあないんだ。見るのは後ろじゃない」
俯いていたミドウが顔を上げると、そこには今までに見た事のない表情を浮かべるエイジの姿があった。
まるで何かを悟っている表情に、ミドウは胸が締め付けられるような感覚を覚える。
その中、『見るのは後ろじゃない』という言葉が、やけに耳に残っていた。