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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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4 旅立ち

 集まってくるものがあの奇怪なものでなければ、エイジにとって辛い戦いではなかった。

 次々と現れてくる木片は、かつて戦った時ほどの驚異を感じない。

 慣れたように、専用に用意しておいた鈍器で殴りつけるのみだ。

 この際、例の断末魔の叫びを利用し、一気に敵を集めてしまうというのも悪くなかったが、まだ近くに多くの人間がいる以上、それは避けたほうがいいと判断した。


「エイジ!」


「それ以上こっちに来るな。話があるならそこから話せ」


 振り向くこともせず、乱暴に返事をするエイジ。

 ミドウは


「荷物をまとめさせている。あと三十分もすれば動けると思う」

「遅い。なんだ? お前死にたいのか?」

「いや、しかしそのくらいの時間がないと――」

「三分だ」

「でも――」

「三分だ。何度も言わせるな。俺の武器は長持ちしないんだよ」


 話はこれで終わりだといった様子で、エイジは武器を振るった。

 ミドウは言い返そうとしたが、その後ろ姿に何も言えず、拳を握りしめて集落に戻っていった。


「三分……もてばいい方だな」


 ぐにゃりと曲がった鈍器を捨て、新たにナイフを握る。

 エイジは息を吐いて、また目標に向けて駆け出した。その時まで向き合っていたはずの二人は今、背を向け合い、そのあいだには亀裂が生まれつつあった。


 慌てて準備を終えた人々を連れて、ミドウは声を上げた。


「私とワタリが先導します。その後ろを子供たちと女、そのさらに後ろを男という風に、固まって歩いてください」


 人々の顔からはそれまでの活気づいていた赤みが消え、青白い血の引いた表情をしている

 。なにかを話せるほどの余裕もないようで、ただ無言でミドウの話を聞いているだけだ。


「軍基地までの距離は約二十キロ。一日あれば十分余裕だ。なあに、大丈夫だよ。前は俺とミドウがいるし、後ろには彼がいる。安心してくれ」


 元気づけようとしているのか、ミドウの隣に立っていたワタリが口を開いた。

 人々は少し安心したのか、何度か頷き、各々声を上げた。


「大丈夫だ。何も起こらないよ」


 ワタリはそう言ってミドウを慰めた。

 ミドウの表情は曇ったまま、少し離れたところで武器の手入れをしているエイジに目が向いていた。

 そのミドウの姿にワタリは複雑な表情を浮かべ、しかしすぐに


「よし、行くぞ!」


 と声を上げ歩き始めた。

 少し遅れてミドウも歩き出す。

 彼らはその時、村の外がどうなっているのかを理解していなかった。

 それは本当に仕方のないことだったのだ。

 外に出れば危ないということは知っていて、結晶を纏った何かがいるのも知っていて――それだけ知っていれば、今の世界が説明できてしまうと思っていたのだ。

 きっと何事もなく軍基地にたどり着き、そしてまたいつも通り――いや、いつもよりもっと裕福な暮らしができるのかもしれないと期待に胸を膨らませていたほどであった。


 数時間後――。


 五十数人いた人々のうち、立っていたのはたった六人だった。


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