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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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2 魅惑の羽音

 ミドウは正直に言って、エイジの言動が冗談とは思えなかった。

 彼の目は間違いなく本気だったし、なにより彼には、ミドウを含めた村の人間たちを助ける義理などないのだから。

 それはミドウとて同じだったが。

 つまり、エイジはいざというときに皆を見捨てることができる人間だ――ミドウは彼をそう評価していたのだった。


 その日は、皆で暖を取ろうと、村の中心で火をつけていた。

 黒い煙がもくもくとたちあがり、それを囲むようにして人が集まっていた。

 久しぶりの落ちついた雰囲気に、彼らは安心して手を伸ばしている。

 指先から伝わる暖かさは、傷ついた心さえも癒してくれるほどに気持ちのいいものだった――。


 村の中のその中心に、見た事のない何かが浮かんでいた。

 その明らかに異質な――奇怪な、機械なものに、ミドウを含めた大勢の人間がクギ付けになる。

 わからなかったのだ。

 それが一体何なのか。

 そして、今が本当に現実なのかどうかが。


「KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA――」


 体中が悲鳴をあげていた。

 その化け物から逃げなければならないと本能的に理解しているのに、体は動かなかった。

 ただ、その奇妙な姿を目で追うだけだった。

 その何か――尾から滴る水色の混じった紫の液体。

 そこから発せられている刺激臭で、頭はすでに麻痺してしまっていた。

 その禍々しさに、ミドウも、村人たちも、魅了されていたのだ。

 その狂気な物体に吸い寄せられていくように、一人の男性がブスリと――刺された。

 腹部に一突きだった。


 そのような現象がおきているというのに、周りにいる彼らはおとなしかった。

 まるで自分たちがそうなるのを待っているかのようにも思えた。

 そうして、次に奇妙な何かが標的にしたのは――ミドウだった。

 ミドウは全く動かなかった。

 口はだらしなく開けたまま、目は禍々しい尾を見つめ、しかし焦点はあっていないように見える。

 逃げ出そうと、心の内ではそう思っている。

 しかしやはり動けないでいる。

 妙な羽音を立てて、その禍々しい尾が近づいていた。

 もう触れるか触れないか――そこまできて、


「そうやってアホ顔のお前……似合ってるぜ? そのまま死ぬってのも悪くないんだろうが、俺はおすすめしない」


 そこにふらりと現れたのは、弓を構えたエイジだった。


 風を斬り放たれた一本の矢は、何を写しているのかわからない目に深々と突き刺さった。

 それと同時に発せられた甲高い奇声によって、ミドウの体がやっと言うことを聞いた。

 ミドウはすぐさま


「逃げるんだ! 今すぐにここから! はやく! はやく逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 必死に叫んだ。

 そしてその声によって、やっとのことで大人たちは動き出し、まだ恐怖によって動けないままの子供を抱え走り出した。

 人が背を向け走りゆく中、エイジだけはその化け物と対峙していた。

 エイジはギリギリと矢を引き、また同じように目を狙っている。


「三度目だな。糞野郎」

「KAKAKA――KAKAKAKAKAKAKA――」


 矢を放つと同時、その行方を目で追うことなくエイジは駆け出していた。

 腰に取り付けてあったガス缶を投げつけ、すぐさま銃を構える。


「KAKAKAKAKA――――」


 矢は見事に突き刺さり、奇怪で機械なものはぐらりとよろめいた。

 そこに飛んでいくものはガス缶。

 エイジはそれに標準を合わせる。


「左手だけどな、お前には外さない。人じゃないお前になら、俺は容赦しない」


 銃声は二発だった。


 ミドウはエイジの化け物と戦う姿をずっと見ていた。

 それは初めて彼に会った時からずっと――。

 彼は本当に、戦うことしかしていなかった。

 ミドウは彼のその、何に対しても自分の身を考えず突っ込んでいく危うさが気になり、近くに置いていたのである。

 それでももう、エイジのいる場所は遠かった。

 遠すぎたのだ。

 化け物を目にした時動けなかったミドウ――立ち向かっているエイジ――。

 ミドウは自分の立場がひどく情けなく感じた。


 爆発――。


 そのまともな人間とは思えない身のこなしに、ミドウは恐怖を覚えた。

 自分たちのために戦っているエイジの姿は、やはり敵と同じような化け物にしか見えなかったのだ。


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