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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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1 今はない

「どうやらもう限界みたいだ」


 集落の女リーダー、ミドウは作業中の彼にそう言った。


「へえ、それは良かったな」


 腰から布袋を取り出して、そこに結晶を放り込む。

 何もなかった時代なら、この結晶はかなり高価な値段で取引されていただろう――それほどに結晶のもつ輝きは美しかった。

 それを体に纏いたいとまでは言わないが。


「食料がもたない」

「……なんだ? 何が言いたい?」


 彼は立ち上がって彼女の方に目を向けた。

 鋭い目つき――短い髪を無理やり後ろで結んだその表情はどうも固く見えてしまう。

 細身の割に不健康っぽさというものはなく、ただ鍛えられたからこその引き締まった体は、誰から見ても魅力的だっただろう。

 彼女は無言で指をさす。

 その先には――


「おいおい冗談はよせ。気でも狂ったか?」

「誤解しないで。それほど状況は深刻だってことなのよ。極めて冗談ではない冗談だけれど――とにかくこのままではあと半年ももたないってこと」


 先ほど倒したばかりのガラス人間が転がっている。

 それに再度目を向けて、思考――


「今の状況がよくないってことくらい、今生きている人間になら誰にだって分かることだろ? それにそもそも、俺たちは五年後確実に――」

「エイジ――それは言わない決まりだったはずよ」


 鋭い眼光に押され、彼は――エイジは「すまなかった」と手を振った。


 エイジにとって残りの五年というのは無だった。

 なにもない。

 なにもないというのは、あの時――あの瞬間から何もかもが終わってしまっているからだった。

 生きているのはなぜだろう。

 彼は毎日目を覚ますたびにそう思う。

 でもその答えはずっと見つからないままだ。







 どうして――その言葉に続けて現れるのが『軍』という単語だった。

 集落の人々は今起きている何かについて危機感がありはするけれど、やはり結局のところ何もわかっていないというのが答えだった。

 毎日のように現れる結晶生物に恐怖し、ぎりぎりの食料で生きていく――その負担は蓄積し、今にも溢れ出してしまいそうだ。

 エイジはすでに、軍という組織が役に立たないことを知っていた。

 そもそも今こんな状況になっているのに、あれから十五年――一度も軍服を着た人間を見ていないということがなによりの証拠だった。

 あの時もしかして、軍はもしかすれば、微塵にもありえない話なのかもしれないがもしかしたら、何らかの形で蜂や結晶生物と抑えようとして――敗れてしまったのだ。

 人間が何人も軍によって殺されたらしいから、そんなことはないのだろうけれど敗北はしたのだろう。

 だから、助けには来ない。

 彼は確信していた。


「エイジ、今いいかしら」


 座った状態から体を起こし、家から外に出る。

 外にはミドウがなにやら深刻な表情で立っていた。


「……中に入れ」


 エイジは彼女を招き入れることにした。


「食料があと一週間ももたない」

「……いや、ちょっと待て。ついこの間半年くらいだと言っていなかったか?」


 あの時から二ヶ月も経っていなかった。

 まさかたったそれだけの時間で三倍の量の食料を消費するなんてことがあるのだろうか――


「子供が増えすぎたんだ。成長期の子供も多い」

「だから俺は反対しただろう。子供なんていてもただの食料を吸い取る害虫だってな。これはおまえの失敗だぞミドウ」

「……わかっている。しかし――」

「解決方法ならあるだろう」


 エイジは壁に掛けてあった銃を手にとって手で転がす。


「害虫でも腹を満たすくらいのことはできる」


 ミドウは表情を歪める。


「それはだめよ。あの子たちだって私たちと同じように生きてる」

「未来はないけどな。そうだ――同じタイミングで死ぬんだ。この際子供だろうと大人だろうと、変わりはないんだぜ? なあに、ひさしぶりの鹿の肉だとでも言えば、皆喜んで食べるだろう」


 エイジは銃をミドウに向けた。

 彼女の目は銃口にクギ付けになったが、


「冗談だよ」


 といって、彼は銃を離した。


「そもそも俺は銃なんて撃てないからな」


 指がないし――と彼は続けた。

 ミドウは見たくないものを見るように、細目でその手を見る。

 彼の右手にあるのは、親指、薬指と小指だけだったからだ。


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