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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
2章 失われた名前
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希望の青年 プロローグ

 生きているか生きていないかで言うならば生きていた。

 彼自身、まさかこの地獄をまさか十五年も生き続けるとは思わなかった。

 外との連絡は切れ、もう国も国という形を保ってはいない。

 人は次々とガラスに飲み込まれ――ガラス人間となり、もう生き残っている人間は数えられる程なのかもしれなかった。


「交代だ」


 黙って立ち上がり、その場をさろうとして――


「お前はここの希望なんだ。別に見張りなんかしなくたって――」

「気にするな」


 それだけ言い残して、彼は自室に向かった。

 見張り台から飛び降り、すると急に子供たちに囲まれる。

 がやがやと笑顔を見せて手を伸ばすが、彼はそれを無視して歩く。

 街というにはあまりに小規模な、生き残った人間たちが集まった集落。

 彼はその小さな集落にいた。


 雪を固めて掘っただけの小屋が並ぶ――顔を覗かせた女性が声をあげ、すれ違う男はかしこまって頭を下げてくる。

 彼はやはり全てを無視して、家に戻った。

 しゃがんで中に入ると、銃を抱えて布にくるまり、座った状態で眠りにつく。

 その冷たく重い物を抱えて寝るというのは、やはりどう考えても異質だった。

 しかしそれでもそうするのは、他人が全く信用できないから――。

 もしかしたら誰かがこの時代に嫌気をさし、皆を殺し始めるかもしれないから――。

 眠れているのかもわからない浅い眠り。

 音も立てずいるその姿は、まるで死んでいるようにも見えただろう。

 死んでいるように生きている彼にはお似合いなのかもしれないが。


「――――」


 遠くで鐘の鳴る音がする。

 彼は目を開けて立ち上がり、外の様子を伺った。


「――、――――っ!」

「――――――!」


 ガラス人間。

 そう判断し、彼は銃を置いてナイフを数本腰のベルトに収めた。

 壁に掛けてあった弓を握り、矢筒を肩にかけ外に出る。

 外は混乱状態にあった。

 人の流れを見て、でてきたのであろう方向へ彼は向かった。

 すれ違う人は必死になって走っているが、逆走する彼を見て急に落ちついた表情を見せる。

 お前が行くなら安心だ――そんな内心が見てとれた。


「……ちっ」


 その人間らしさに、人間特有の卑怯な性格に、嫌気がさす。

 こんな時代になってしまったからなのか、人間の卑怯さには磨きがかかっているようにも思えた。


「来てくれたっ! やつが来てくれたぞっ!」


 彼が来たことに気づいた男たちが揃って声をあげる。

 彼は無言で、弓に矢を添え構えた。

 遠くにゆらゆらと歩く人影が見える。


「  ――かかか」


 狙いを絞る。

 弓は本来結晶に身を包んだガラス人間には効果のないものだったが――彼の引き絞る矢の先――それは光を反射する若干水色がかった透明な矢先。

 ガラス人間から搾取した結晶体を削ったものだった。

 手を離す。

 緩やかな曲線を描いて、その矢は見事ガラス人間の頭部に突き刺さった。

 おおっ、と声が上がり、拍手が集落に広がる。

 彼は射止めた獲物に向かっていった。

 それを追う者はだれもいない。

 これから彼がやろうとしていることに、だれも関わりたくはないからだった。


 卑怯なやつらだ。


 彼はやはりそう思わずにはいられない。

 矢先と同じように、結晶を加工して作ったナイフを、容赦もなしに獲物に突き刺す。

 水色混じりの血が噴水のように飛び出すが、彼はそれを気にも止めず中身を外に投げていく。


「貴重な資源だ」


 彼の目には何も写っていない。


 結晶には結晶を。

 経験でそれを知っていた彼は、それをだれかに教えようとは思っていなかった。

 それに、言ったところでだれも信じようとはしなかっただろう。

 彼の手元にある一冊の本を読まない限りは――。


 ある生物兵器の研究資料。


 彼の首には鹿の角で作られた首飾りがぶらさがっている。


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