終 産声のナイフ
少女はしばらくして
「会いたい人がいるんです。終わってしまう前に」
そう言い残してこの場を去った。
私は彼女に研究資料を手渡し、だれかに伝えて欲しいと身勝手に願った。
本当にわがままだった。
「頭がぼうっとしてきました」
彼女は目を閉じたまま安心しきったような表情で言う。
体内の結晶化が進み、脳に到達し始めたのかもしれない。
なかなか私が切ろうとしないのは、彼女と少しでも話していたかったからだけでなく、ただ単に、まだ覚悟できなかったからだった。
人の腹を切るという行為は、やはり――
「名前を決めておきましょうか」
「子供のですか?」
「ええ。先の女の子。奈々嘉という名前。素敵ですよね」
私は黙って頷く。
彼女の最後の言葉はそれだった。
水色の血が吹き出し、それは空気に触れると結晶化を始める。
それは花のようにも見え、その奥から取り出された子供を私は彼女のマフラーで包んだ。
水色の血を浴び、子供は大きく声を上げる。
泣いている。
鳴いている。
私もつられて泣いて、ただ残った命を抱くことしかできなかった。
子供の鳴き声は私をひどく罵倒しているようにも思え、どうしようもできない自分が嫌になる。
その一声が胸に刺さり、針のように刺さったまま外れることはない。
「これは罪の痛みだ」
私は彼女をその場に残して、子供を抱えて歩き出す。
名前も知らない女性、聖母のような彼女から受け取ったものを抱えて。
繋ぐために――継ぐために――。




