表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 産声のナイフ
20/147

終 産声のナイフ

 少女はしばらくして


「会いたい人がいるんです。終わってしまう前に」


 そう言い残してこの場を去った。

 私は彼女に研究資料を手渡し、だれかに伝えて欲しいと身勝手に願った。

 本当にわがままだった。


「頭がぼうっとしてきました」


 彼女は目を閉じたまま安心しきったような表情で言う。

 体内の結晶化が進み、脳に到達し始めたのかもしれない。

 なかなか私が切ろうとしないのは、彼女と少しでも話していたかったからだけでなく、ただ単に、まだ覚悟できなかったからだった。

 人の腹を切るという行為は、やはり――


「名前を決めておきましょうか」

「子供のですか?」

「ええ。先の女の子。奈々嘉という名前。素敵ですよね」


 私は黙って頷く。

 彼女の最後の言葉はそれだった。


 水色の血が吹き出し、それは空気に触れると結晶化を始める。

 それは花のようにも見え、その奥から取り出された子供を私は彼女のマフラーで包んだ。


 水色の血を浴び、子供は大きく声を上げる。

 泣いている。

 鳴いている。

 私もつられて泣いて、ただ残った命を抱くことしかできなかった。

 子供の鳴き声は私をひどく罵倒しているようにも思え、どうしようもできない自分が嫌になる。

 その一声が胸に刺さり、針のように刺さったまま外れることはない。


「これは罪の痛みだ」


 私は彼女をその場に残して、子供を抱えて歩き出す。

 名前も知らない女性、聖母のような彼女から受け取ったものを抱えて。

 繋ぐために――継ぐために――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ